嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 うまく言いくるめられたと思ったら、ルチアは尚も食い下がってきた。

「だったらわたし、誰か平民と結婚します! そうしたら貴族をやめられるんですよね?」
「そんなことブルーメ子爵がお許しにならないわ。例え駆け落ちしたとしても、連れ戻されて意に沿わない結婚を強いられるだけよ」

 母ロミルダのように家に見捨てられる者もいるが、大概の令嬢は外聞のため適当なところへ嫁がされるのが常識だ。そのまま家に閉じ込められて、二度と社交の場に現れることもなく忘れられた過去のひととなっていく。

「いい? よく聞いて。貴族令嬢の結婚は父親が決めるものなの。でも大丈夫よ。心配しなくても、ルチア様にとって一番の良縁を整えてくださるわ。早まった真似(まね)をして、変なところに嫁がされたくはないでしょう?」

 ルチアは言い負かされた人間がするような、そんな悔しそうな顔をした。

「あなたは今、環境の変化に混乱しているのよ。時間がたてばきっと落ち着くわ。いつでもわたしが相談に乗るから、遠慮しないで何でも言ってちょうだい。悪いようにはしないから、ね?」

 やさしく(さと)すように言う。味方であることを示しておかないと、孤立したルチアがいつか暴走してしまいそうだ。

「だから約束して? あなたの身の上はもう誰にも話さないこと。わたし以外の人間は基本信用しては駄目よ」
「リーゼロッテ様も?」
「そうね。事実を知る者は少ない方がいいわ」
「分かりました。だけど、エマニュエル様を信用できる保証はどこにあるんですか?」

 反撃するかのごとく(にら)まれた。どうやらルチアの性格は、一筋縄ではいかないらしい。

「そう言われると保証できるものなど何もないわ。でもね、これだけは言わせて。わたしも子を持つ親の立場よ。あなたを(のこ)して()かれたお母様の気持ちを思うと、黙って見てはいられないの」

 本音はフーゲンベルク家に迷惑をかけてほしくないだけだ。だがこの言葉にも偽りはなかった。静かに見つめると、ルチアは今にも泣きそうな顔で口を引き結んだ。

 そんなルチアの手を取って、腕の中に閉じ込める。一瞬身を強張(こわば)らせるも、ルチアはすぐに力を抜いてきた。
 いつも我が子にするように、エマニュエルはしばらくルチアの頭を撫で続けた。

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