嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 リーゼロッテたちが出かけるからと、一緒に貴族街に行くことになった。と言っても別馬車での移動だ。今いる面子(めんつ)はルチアを含め、ベッティにエマニュエル、そして彼女の息子のランドルフの四人だった。

「おいべってぃ、きじょくがいにはな、おいしいおやつがいっぱいあるんだじょ」
「それはそれはたのしみですねぇ」

 向かいの席でベッティがランドルフの相手をしている。ランドルフはベッティにべったりで、いたく彼女を気に入ったようだ。

「ルチア様は貴族街は初めて?」
「はい、ブルーメ家は王都から遠いですから」

 未だにルチアはエマニュエルとの距離を測りかねていた。このひとは損得勘定でしか動かないタイプの人間だ。なんとなくそう感じられて、打ち解け切ることができないでいる。

「だったら今日はいろいろ回りましょう。気に入ったものをなんでも選ぶといいわ」
「でもそんなお金は……」
「ルチア様ぁ、そんなことは気になさらなくていいんですよぅ。あとでまとめて子爵様がお支払いしてくださいますからぁ」

 貴族の買い物はツケ払いが当たり前のことらしい。よほどの信用がなければ、下町ではあり得ないことだった。

 これまで(つちか)ってきた価値観が、どうにも貴族でいることを拒絶する。握りしめた銅貨一枚で、今日は何と何を買おう。そんなふうに考えを巡らしていた日々が、無性に恋しくて仕方がなかった。

「あまり気乗りがしないようね?」
「すみません、やっぱり慣れなくて……」
「いいのよ、少しずつやっていけばいいわ」

 穏やかに微笑まれる。エマニュエルはやさしいひとだ。恐らく、身内に限っては。

 自分の意に反する者を平気で排する人間を、今までルチアは多く目にしてきた。エマニュエルを裏切ったりしたら、きっと自分も冷たく切り捨てられるのだろう。
 信じられるのは自分だけだ。ずっとそうやって生きてきた。貴族の輪の中にいて、この思いは誰にも分かってもらえない。言いようのない孤独が押し寄せる。

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