嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
(このままで本当にいいの……?)
胸の内、自分に問いかけた。
貴族として子爵の決めた誰かに嫁ぎ、貴族として子をなし、貴族として閉じ込められたまま死んでいく。そこには自分が存在しないように感じられて、真っ黒い塊が重く心を占拠した。
(せめて相手を選べたらよかったのに)
リーゼロッテが用意してくれた恋愛小説は、お姫様が騎士と結ばれたり、身分の低い令嬢が王子様と結婚したりと、荒唐無稽と思えるほど夢のような結末ばかりだ。
母アニサはいつも言っていた。女性のしあわせは、心から愛するひとと結ばれることだと。
ふとカイの顔が頭をよぎり、ルチアは慌てて自分の考えを打ち消した。
「どうかして?」
「あ、いえ、何でもありません」
膝の上でぎゅっと手を握りしめる。叶うことのない未来など、期待を抱くだけ無意味なことだ。その先には、失望しか待っていないのだから。
それでもカイの顔がちらついた。“下町のルチア”を知る者は、貴族の中では彼しかいない。
「エマニュエル様……ひとつだけ聞いてもいいですか?」
「ええ、もちろん」
「カイ・デルプフェルト様ってどんなひとですか?」
「デルプフェルト様? そうね……侯爵家の五男、イジドーラ前王妃の甥でありハインリヒ王の従弟、そして王城騎士を務める立派な方ってところかしら?」
急な問いかけにもかかわらず、エマニュエルはすらすらと答えてくれた。やはり敵に回してはいけない頭のいいひとなのだろう。
「デルプフェルト家では跡目争いが激しいようだけど、あの方は一線から退いているみたいね」
「そうなんですか?」
「ええ。正妻様の遺した子供はあの方だけだから、跡取りに選ばれても良さそうなのだけれど」
「詳しいんですね」
「社交界では常識よ。ルチア様もよく勉強しないといけないわね」
胸の内、自分に問いかけた。
貴族として子爵の決めた誰かに嫁ぎ、貴族として子をなし、貴族として閉じ込められたまま死んでいく。そこには自分が存在しないように感じられて、真っ黒い塊が重く心を占拠した。
(せめて相手を選べたらよかったのに)
リーゼロッテが用意してくれた恋愛小説は、お姫様が騎士と結ばれたり、身分の低い令嬢が王子様と結婚したりと、荒唐無稽と思えるほど夢のような結末ばかりだ。
母アニサはいつも言っていた。女性のしあわせは、心から愛するひとと結ばれることだと。
ふとカイの顔が頭をよぎり、ルチアは慌てて自分の考えを打ち消した。
「どうかして?」
「あ、いえ、何でもありません」
膝の上でぎゅっと手を握りしめる。叶うことのない未来など、期待を抱くだけ無意味なことだ。その先には、失望しか待っていないのだから。
それでもカイの顔がちらついた。“下町のルチア”を知る者は、貴族の中では彼しかいない。
「エマニュエル様……ひとつだけ聞いてもいいですか?」
「ええ、もちろん」
「カイ・デルプフェルト様ってどんなひとですか?」
「デルプフェルト様? そうね……侯爵家の五男、イジドーラ前王妃の甥でありハインリヒ王の従弟、そして王城騎士を務める立派な方ってところかしら?」
急な問いかけにもかかわらず、エマニュエルはすらすらと答えてくれた。やはり敵に回してはいけない頭のいいひとなのだろう。
「デルプフェルト家では跡目争いが激しいようだけど、あの方は一線から退いているみたいね」
「そうなんですか?」
「ええ。正妻様の遺した子供はあの方だけだから、跡取りに選ばれても良さそうなのだけれど」
「詳しいんですね」
「社交界では常識よ。ルチア様もよく勉強しないといけないわね」