嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 藪蛇(やぶへび)になってしまって、ルチアは思わず顔をしかめた。

「そんなに嫌がらないで。これも貴族社会で過ごしやすくするための手段なのよ」
「分かりました。あの、それで他にはないんですか? デルプフェルト様の、その、噂とか……」
「噂……?」

 一瞬、目を丸くしたあと、エマニュエルは何かを察したようにうすく苦笑いをもらした。むっとしつつも、聞いてしまった手前おとなしく返答を待った。

「社交の場では、あまり良い噂があるとは言えないわね。恋多き方のようだから」
「恋多き……」
「お相手は既婚者ばかりで、いわゆる割り切った関係と言うことよ」

 唇を噛みしめ俯いた。白の夜会でイザベラに言われたことと、まったく同じ内容だ。

「ルチア様。大事なことだからよく聞いて? ブルーメ家に行くにあたって懇意(こんい)にされていたみたいだけれど、デルプフェルト様にしてみれば職務のひとつよ。勘違いしない方がいいわ」
「……分かってます」
「そう、ならいいわ。でももうひとつ大事なことを言わせてもらうわね。夜会で彼に会っても、絶対に親しく話したりしてはいけないわ」
「どうしてですか? 知り合いなんだから別にいいじゃないですか」
(おおやけ)の場ではそうはいかないの。ああいった方と親密だと分かると、ルチア様は遊びなれた令嬢と思われてしまうのよ」
「何それ、意味が分からない……」
「ルチア様、随分と言葉が乱れておいでよ?」

 (たしな)めてくるエマニュエルの表情は、マナー教師のそれと同じだ。

(母さんにもよくこんなふうに叱られたっけ)

 アニサはお姫様ごっこと称した淑女教育を、幼いころからルチアに施してくれた。母は自分が貴族になることを、はじめから分かっていたのだろうか。

 いろんな考えが散らかったまま、馬車は貴族街に到着した。

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