嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「イザベラ、お前はここで待ってろ!」
「えっ、いきなり何ですの? ちょっとお兄様……!」
イザベラの叫び声を背に、令嬢を追いかけ裏路地に入る。建物の影に翻ったスカートが垣間見え、ニコラウスは急ぎそこを目指し走っていった。
治安のいいこの貴族街で、白昼堂々暴力沙汰が起こるなど考えにくいが、あんな姿の令嬢を放っておけるはずもない。
「そこのご令嬢! 怖くないから逃げんでくれ!」
声を張り上げるが、赤毛の令嬢は細い通りの遥か先を駆けていく。
(あれだけ走れりゃ大怪我はしてなさそうだな)
淑女らしからぬ足の速さに驚きつつも、そうは言ってもニコラウスは現役の騎士だ。令嬢との距離を着実に詰めていった。
あともう少しで追いつきそうになった時、令嬢が横道に駆け込んだ。そこを突き抜けた大通りで、ニコラウスはその姿を見失ってしまった。
「どこか店に入ったのか……?」
随分と外れの方に来たようで、あまり人気のない区画だった。ほかに隠れられそうな場所もなく、店を何件か覗いてみる。だが先ほどの令嬢はどこにも見当たらなかった。
「ここが最後の店か。旗は……立ってねえな」
貴族街ではそれぞれが扉の前に旗を掲げ、そこが何の店かを知らせている。旗が表に出ていないときは、その店が閉まっていることを示していた。
念のためにと扉を叩く。しばらくすると耳障りなドアベルの音を響かせて、フードを目深にかぶった若い男が現れた。
「占いの館へようこそ、貴族の旦那様」
「う、占い!? あ、いやオレは客じゃなくてひとを探してて」
「ひとを?」
胡散臭そうな声で問い返される。怪しげな人間に怪しまれるのもなんだか心外だ。だがここはそういう趣向の店なのだろう。薄い香の匂いが漂ってきて、そう考えればフードをかぶった男も、いかにもな雰囲気に思えてくる。
「オレはニコラウス・ブラル、大公閣下直属の騎士だ。ここに赤毛の令嬢はやってこなかったか?」
「赤毛の令嬢……でございますか?」
「もしかしたら怪我をしているかもしれないんだ。供の者もつけずにいるところを見かけたから、心配になって追いかけてきたんだが」
「ああ……」
小馬鹿にしたように、フードの男は鼻からかすかに息を漏らした。
「えっ、いきなり何ですの? ちょっとお兄様……!」
イザベラの叫び声を背に、令嬢を追いかけ裏路地に入る。建物の影に翻ったスカートが垣間見え、ニコラウスは急ぎそこを目指し走っていった。
治安のいいこの貴族街で、白昼堂々暴力沙汰が起こるなど考えにくいが、あんな姿の令嬢を放っておけるはずもない。
「そこのご令嬢! 怖くないから逃げんでくれ!」
声を張り上げるが、赤毛の令嬢は細い通りの遥か先を駆けていく。
(あれだけ走れりゃ大怪我はしてなさそうだな)
淑女らしからぬ足の速さに驚きつつも、そうは言ってもニコラウスは現役の騎士だ。令嬢との距離を着実に詰めていった。
あともう少しで追いつきそうになった時、令嬢が横道に駆け込んだ。そこを突き抜けた大通りで、ニコラウスはその姿を見失ってしまった。
「どこか店に入ったのか……?」
随分と外れの方に来たようで、あまり人気のない区画だった。ほかに隠れられそうな場所もなく、店を何件か覗いてみる。だが先ほどの令嬢はどこにも見当たらなかった。
「ここが最後の店か。旗は……立ってねえな」
貴族街ではそれぞれが扉の前に旗を掲げ、そこが何の店かを知らせている。旗が表に出ていないときは、その店が閉まっていることを示していた。
念のためにと扉を叩く。しばらくすると耳障りなドアベルの音を響かせて、フードを目深にかぶった若い男が現れた。
「占いの館へようこそ、貴族の旦那様」
「う、占い!? あ、いやオレは客じゃなくてひとを探してて」
「ひとを?」
胡散臭そうな声で問い返される。怪しげな人間に怪しまれるのもなんだか心外だ。だがここはそういう趣向の店なのだろう。薄い香の匂いが漂ってきて、そう考えればフードをかぶった男も、いかにもな雰囲気に思えてくる。
「オレはニコラウス・ブラル、大公閣下直属の騎士だ。ここに赤毛の令嬢はやってこなかったか?」
「赤毛の令嬢……でございますか?」
「もしかしたら怪我をしているかもしれないんだ。供の者もつけずにいるところを見かけたから、心配になって追いかけてきたんだが」
「ああ……」
小馬鹿にしたように、フードの男は鼻からかすかに息を漏らした。