嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「その令嬢は、肩に小さな異形の者を乗せていませんでしたか?」
「……確かに乗せていたな。彼女はやはりここに来たんだな?」
「いいえ」

 口元に笑いを含ませる男の態度にむっとして、ニコラウスは思わず語調を強めた。

「だったら何で知っているんだ」
「それは……」

 俯き加減の男は、いまだ笑いをこらえるように口を(ゆが)ませている。ここまでくると薄気味悪くすら感じてしまった。

「実は噂があるのですよ」
「噂?」
「はい、未練を残して亡くなった赤毛の令嬢が、夕暮れ時になると貴族街に姿を現すと」
「亡くなった令嬢が? どうして貴族街に現れるんだ」
「なんでも貴族街に向かう途中で、不運にも事故にあってしまったとか。死んでもなおやってくるなんて、よほどここに来たかったのでしょうね……」

 異形を見慣れている身としては、あの令嬢が死人とは思えなかった。だがおどろおどろしく話す男に、ニコラウスは若干たじろいだ。

「でもよかったですね。あなたのように令嬢を追いかけて、そのまま行方不明になった者もいるらしいですから……」
「そ、そんなことが起きたら大問題になっているだろーが」
「あくまでわたしはそういう噂を耳にしたというだけですので。それで、貴族の旦那様。占いはご希望なさいますか?」

 咄嗟(とっさ)のことで言葉が出ない。返事をしあぐねていると、男はフードの頭をゆっくりと下げた。

「ご用がなければお引き取りを」

 閉められた扉の前で、ニコラウスはなんとも(きつね)につままれたような顔をした。

< 267 / 302 >

この作品をシェア

pagetop