嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 ハンドチェーンに飾られた輝石をしゃらりと鳴らしながら、クリスティーナは薄いヴェールで髪と口元を隠した。

「この姿も久しぶりね」
「まったく……買い物がしたいと言うから連れてきたのに、どうしてここで(まじな)い師の格好を」
(まじな)いではないわ、宿世(すくせ)の占いと言ったでしょう。良いじゃない。貴族街の聖女がいなくなったと、社交界ではちょっとした話題になっているそうよ? たまには店を開けておかないと」

 一度言い出したら何があっても聞き入れないのは、王女だった時から変わらない。それを一番よく分かっているはずのアルベルトは、くすくすと笑うクリスティーナを前に諦めの顔をした。
 仕方なさそうにしながらも、アルベルトは慣れた手つきで順に一本一本、蠟燭(ろうそく)に火を灯していく。不規則に揺らめく炎は、壁のいたるところに影を落としはじめた。

 部屋の片隅に掛けられていた黒いマントを、おもむろにクリスティーナは手に取った。王女時代にお忍びで来るたびに、ヘッダがここで身に着けていたものだ。

「あの子は本当にいなくなってしまったのね……」

 (すみれ)色の瞳を伏せ、布地に指を滑らせる。

「これからはアルベルト、あなたの仕事よ」

 差し出されたマントを、アルベルトは言われるでもなく自ら羽織った。背伸びをして手を伸ばすと、身をかがめ頭を下げてくる。

(たけ)が短いけれどちゃんと着られそうね。ヘッダのように目深(まぶか)にかぶらなくては駄目よ? こういうのは雰囲気が大事なのだから」

 笑いながらフードをかぶらせると、アルベルトは呆れたように息をついた。

「雰囲気うんぬんではなく、ヘッダ様はお顔を隠すためにかぶっていただけでしょう?」
「またそんなふうに言って。ほんと、つまらない男。たまには気の()いた冗談でも披露(ひろう)したらどうなの?」

 たのしげに言ったクリスティーナの目の前が、突如(とつじょ)光の(うず)に包まれた。押し寄せる映像(ビジョン)の波に、(あらが)うこともできずに飲み込まれていく。

 誰かに呼ばれたような気がして、クリスティーナはふと目を覚ました。お気に入りの縫いぐるみを胸に抱え、深夜の子ども部屋をひとり出る。
 誘われるままにたどり着いたのは、今まで来たこともない王城の奥深くだった。冷え冷えとした廊下で、クリスティーナは先にその場にいたイルムヒルデに問いかけた。

「おばあさま、ここでなにをなさっているの?」
「クリスティーナ、なぜあなたがこのような場所に……」

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