嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「リシルの定めを回避したくば、ラスの対となるオーンの宿命を行け……」

 ()うように両手を掲げ、クリスティーナは天井を仰いだ。子どもとは思えない重い声音が、なおもその口から紡がれる。

「時が満ち、ラスと出会うその日まで、リシルは神殿に足を踏み入れること(まか)り成らん。時が満ち、ラスと出会った(あかつき)に、オーンの定めと成り替わり、リシルは新たな道を行くであろう……」

 光の渦が広がって、目の前の何もかもを埋め尽くしていく。誰かに肩を揺さぶられ、クリスティーナは一瞬で正気を取り戻した。

「アルベルト……」
「クリスティーナ、もしかして夢見の力が?」
「いいえ、違うわ」

 眉間に指を当て、深く息を吐きだしていく。今視えたのは遠い過去の記憶だ。クリスティーナ自身、ずっと忘れ去っていたはずの。

「そんな記憶(もの)をわざわざ呼び起こすだなんて……。夢見の力が失われた今も、青龍はわたくしを使い走りにする気でいるようね」

 言いながら見据(みす)えた先の扉のドアベルが、がららんと耳障(みみざわ)りな音を立てた。突然飛び込んできた赤毛の令嬢を前に、アルベルトがクリスティーナを後ろ手に(かば)う。令嬢の肩にいた小さな異形が、アルベルトの刺すような視線から(のが)れるように、スカートの影にぴゅっと隠れた。

「大丈夫よ。あなたはきちんと顔を隠していなさい」

 アルベルトの前に出ると、クリスティーナはヴェール越しに令嬢に微笑みかけた。息を乱した令嬢は、驚いたように扉まで後退(あとずさ)る。

「ようこそ、宿世(すくせ)の占いへ」
「宿世の占い……?」
「ええ、ここは導かれた者のみが辿り着く占いの館。何を占いましょうか? 貴族のお嬢様」

 戸惑った顔の令嬢が背にした扉が、外から誰かに叩かれた。(おび)えたように振り返り、次いで令嬢はすがるようにクリスティーナを見た。

「あの、わたし知らないひとに追われてて……」
「その姿もそいつのせいで?」

 鋭く問うたアルベルトに、赤毛の令嬢は慌てて首を振った。

「いえ、これは木から降りたときに……」
「木から?」
「はい、どうしても逃げ出したくて」

 令嬢の返答に、クリスティーナは涼やかな笑い声を立てた。

「なんだかたのしそうね。わたくしもやってみればよかったわ」
「またそのようなことを……」

 アルベルトの呆れ声に重なって、再び扉が叩かれる。

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