嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「追い返しなさい」
令嬢の手を引いて部屋の奥に導いた。かわりにアルベルトを扉へと向かわせる。
衝立の陰に隠れて、クリスティーナは聞き耳を立てた。不安げな令嬢は、じっと息をひそめている。
「占いの館へようこそ、貴族の旦那様」
「う、占い!? あ、いやオレは客じゃなくてひとを探してて」
ところどころ聞き取れないが、アルベルトが突拍子もない話をしはじめる。続けられる受け答えが可笑しすぎて、クリスティーナは漏れそうになる笑いをなんとか押し殺した。死んだことにされた赤毛の令嬢は、どうにも複雑そうな顔をしている。
「ご用がなければお引き取りを」
最後に低く言って、アルベルトは素早く扉を閉めた。鍵をかけ、クリスティーナの元に戻ってくる。
「馬鹿真面目なあなたにしては、なかなか上出来だったのではない?」
「気の利いた冗談を披露しろと言ったのはあなたでしょう? 自分で言っていて、笑いをこらえるのに苦労しましたよ」
いつもの軽口の後、令嬢に視線を向けた。彼女の出で立ちは、見れば見るほどひどい有様に思えてくる。
「先ほどの男には、本当に何もされていないのね?」
「はい。あのひとはただのお節介……あ、いえ、親切なひとなだけだと思います」
「そう、ならいいわ」
クリスティーナが頷くと、令嬢は深く頭を下げてきた。
「助けていただきありがとうございました」
「それであなたはどこに行くつもりなの?」
「え?」
「貴族街から出たいのでしょう? ついでだから行きたいところに連れていってあげるわ」
「本当に?」
渋い顔で会話を聞いていたアルベルトから、クリスティーナはマントをはぎ取った。それを令嬢の肩に掛けると、フードを目深にかぶらせる。
「あなたは今からわたくしの付き人よ。誰にも顔を見られないように、ね?」
素直にうなずいた令嬢を引き連れ、入り口のロータリーへと向かう。そのまま馬車に乗せ、貴族街の門を出た。
しばらく王都の街並みを進むと、令嬢が早々に降ろしてほしいと言ってきた。
「本当にこんな場所でいいの?」
「はい、ここからなら辻馬車も拾えると思うので。このマントも、本当にありがとうございました」
もう一度頭を下げると、令嬢は足早に馬車から離れていった。街並みに溶け込んで、その姿はすぐ見えなくなる。
「……行かせてよかったのですか? 彼女はルチア・ブルーメでしょう?」
「分かっているわ。すべては龍の思し召しよ」
アルベルトの問いかけに、クリスティーナは静かに瞳を伏せた。
龍の定めた結末だ。それを変えることは誰ひとりとしてできはしない。いずれ辿りつく未来を、例えすべて知っていたとしても。
「だとしたらそこまでは、せめて自分の足で歩みたいじゃない」
かつてのクリスティーナがそうであったように――。
自分たちに訪れた奇跡の光を、彼らもまた享受できるようにと、今はただ祈るしかなかった。
令嬢の手を引いて部屋の奥に導いた。かわりにアルベルトを扉へと向かわせる。
衝立の陰に隠れて、クリスティーナは聞き耳を立てた。不安げな令嬢は、じっと息をひそめている。
「占いの館へようこそ、貴族の旦那様」
「う、占い!? あ、いやオレは客じゃなくてひとを探してて」
ところどころ聞き取れないが、アルベルトが突拍子もない話をしはじめる。続けられる受け答えが可笑しすぎて、クリスティーナは漏れそうになる笑いをなんとか押し殺した。死んだことにされた赤毛の令嬢は、どうにも複雑そうな顔をしている。
「ご用がなければお引き取りを」
最後に低く言って、アルベルトは素早く扉を閉めた。鍵をかけ、クリスティーナの元に戻ってくる。
「馬鹿真面目なあなたにしては、なかなか上出来だったのではない?」
「気の利いた冗談を披露しろと言ったのはあなたでしょう? 自分で言っていて、笑いをこらえるのに苦労しましたよ」
いつもの軽口の後、令嬢に視線を向けた。彼女の出で立ちは、見れば見るほどひどい有様に思えてくる。
「先ほどの男には、本当に何もされていないのね?」
「はい。あのひとはただのお節介……あ、いえ、親切なひとなだけだと思います」
「そう、ならいいわ」
クリスティーナが頷くと、令嬢は深く頭を下げてきた。
「助けていただきありがとうございました」
「それであなたはどこに行くつもりなの?」
「え?」
「貴族街から出たいのでしょう? ついでだから行きたいところに連れていってあげるわ」
「本当に?」
渋い顔で会話を聞いていたアルベルトから、クリスティーナはマントをはぎ取った。それを令嬢の肩に掛けると、フードを目深にかぶらせる。
「あなたは今からわたくしの付き人よ。誰にも顔を見られないように、ね?」
素直にうなずいた令嬢を引き連れ、入り口のロータリーへと向かう。そのまま馬車に乗せ、貴族街の門を出た。
しばらく王都の街並みを進むと、令嬢が早々に降ろしてほしいと言ってきた。
「本当にこんな場所でいいの?」
「はい、ここからなら辻馬車も拾えると思うので。このマントも、本当にありがとうございました」
もう一度頭を下げると、令嬢は足早に馬車から離れていった。街並みに溶け込んで、その姿はすぐ見えなくなる。
「……行かせてよかったのですか? 彼女はルチア・ブルーメでしょう?」
「分かっているわ。すべては龍の思し召しよ」
アルベルトの問いかけに、クリスティーナは静かに瞳を伏せた。
龍の定めた結末だ。それを変えることは誰ひとりとしてできはしない。いずれ辿りつく未来を、例えすべて知っていたとしても。
「だとしたらそこまでは、せめて自分の足で歩みたいじゃない」
かつてのクリスティーナがそうであったように――。
自分たちに訪れた奇跡の光を、彼らもまた享受できるようにと、今はただ祈るしかなかった。