嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 フードを目深にかぶり、ルチアは雑踏(ざっとう)の中を歩いていた。下町の雰囲気にほっとする。ようやく帰ってこれた。そんな気分だ。

「よう、べっぴんさん。きれいなおべべ着てどこ行くんだい?」

 酔っぱらいに突然二の腕を掴まれた。もらったマントも(すそ)からはみ出しているスカートも、確かに平民にそぐわない上質なものだ。フードをめくられまじまじと顔を覗かれる。

「なんだ、あんた見事な赤毛だなぁ」
「ちょっとやめて!」

 周囲の注目を浴び、ルチアは男を振り切って駆けだした。

(辻馬車に乗る前にこの格好をなんとかしなくちゃ)

 服を買うにはお金がいるが、ルチアは銅貨一枚持ち合わせていなかった。ブルーメ家に行ってから、まったくお金を目にしていない。欲しいと思う前にすべてが与えられ、貨幣など生涯手にしない貴族も多いらしい。

(これを売るしかないわよね……)

 少し気が引けるが、ここまで来たらもう後には引けない。今日買ってもらったネックレスを、忍ばせてきたポケットの中でルチアはぎゅっと握り締めた。
 金貸しは街に一軒くらいはあるものだ。そういった店は物を買い取って金に換えてくれたりもする。大きな通りを歩いてみるが、なかなか目的の店は見つからない。

 新しい街に来たときは、母のアニサはちょっとした買い物をして、そこの店主からいろいろと情報を聞き出していた。だが買い物をするにも、今のルチアには金がない。堂々巡りにため息が出た。買う気もないのに邪魔だけすると、店の人間はいい顔をしないものだ。
 仕方なく、道行く人間を呼び止めようとした。だがルチアが声を掛けようとすると、よそ者を見る目つきで距離を取られてしまう。

「お嬢さん、お困りかい?」
「道に迷っているなら案内するぜ?」

 まずいと思ったときにはもう、ガラの悪そうな男たち数人に囲まれていた。関わると(ろく)なことがない部類の者たちだ。

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