嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「あの、わたし出ていきます」
「しっ、黙って。いいからあのひとに任せときな」
制されてルチアは口をつぐんだ。息をひそめ、女とともに扉の様子をうかがった。
「ひとんちでうるさく騒ぎやがって。こちとら熊と素手でやり合ったこともあんだ。痛い目見たいのはどうやらそっちのようだなぁ?」
ぼきぼきと拳の鳴る音がする。ごろつきたちの怯む様子が気配で分かった。
「きょ、今日のところは勘弁してやらぁ」
「へっ、おととい来やがれってんだ」
逃げるように去って行く男たちに毒づくと、大男は扉を閉め素早く閂を掛けた。
「あんた、怪我はないかい?」
「はい、助けてくれてありがとうございました……」
危機が去った安堵から、半ば放心状態になる。ふと夕食のおいしそうな匂いが鼻をついて、はっと我に返った。早くしないと日が暮れて辻馬車がなくなってしまう。
「あのっ、服を! 服を交換してもらえませんか!? これ、ちょっと汚れちゃってるけど、洗えば大丈夫だと思うから」
「服を?」
突然の申し出に女は目を丸くした。
「わたし、行きたいところがあって、でもこの格好じゃ目立ってしまって……」
「それであの男たちに狙われたってわけか。あんた、いいとこのお嬢さんなんだろう? 家の人に迎えに来てもらった方がいいんじゃないのかい?」
慌てて首を振る。連れ戻されたりしたら、きっとあの世界から二度と抜け出せなくなってしまう。
「……実はわたし、里親のところを飛び出してきちゃって」
「やっぱり家出か。そんなこったろうと思ったよ。逃げ出したくなるほど嫌な里親だったのかい?」
「いえ、すごく良くしてもらってたんですけど……あのままあそこにいたら、好きでもないひとと結婚させられそうで……」
「なんだいそりゃ。貴族でもあるまいし、ひどい話だねぇ」
同情の瞳で女はルチアに服を用意してくれた。貴族街でもらったマントも上質すぎるので、薄いコートと交換してもらう。人目を引く赤毛を隠すためのスカーフも、女は快く譲ってくれた。
「行く前になんか食べてくかい? 大したもんは出せないけどさ」
テーブルにはふたり分の食事が並んでいる。ブルーメ家で用意されるものよりも、ずっと粗末で質素なものだ。それでもあたたかな家族の食卓に思えて、胸の奥がぎゅっと痛んだ。
「……早くしないと辻馬車がなくなっちゃうから」
「そうかい。じゃあ、気をつけて」
ふたりに見送られ玄関を出る。振り返り、ルチアは深々と頭を下げた。
「たくさんありがとうございました」
「ああ、本当に気をつけて。あたしたち、親の反対を押し切って一緒になったんだ。だから逃げ出したいあんたの気持ちもよく分かるよ」
仲睦まじく並ぶ夫婦は、互いを見つめ微笑み合った。せり出したお腹に手を当てて、女は甘えるようにもたれかかる。大男はその肩を愛おしそうに抱き寄せた。
「しっ、黙って。いいからあのひとに任せときな」
制されてルチアは口をつぐんだ。息をひそめ、女とともに扉の様子をうかがった。
「ひとんちでうるさく騒ぎやがって。こちとら熊と素手でやり合ったこともあんだ。痛い目見たいのはどうやらそっちのようだなぁ?」
ぼきぼきと拳の鳴る音がする。ごろつきたちの怯む様子が気配で分かった。
「きょ、今日のところは勘弁してやらぁ」
「へっ、おととい来やがれってんだ」
逃げるように去って行く男たちに毒づくと、大男は扉を閉め素早く閂を掛けた。
「あんた、怪我はないかい?」
「はい、助けてくれてありがとうございました……」
危機が去った安堵から、半ば放心状態になる。ふと夕食のおいしそうな匂いが鼻をついて、はっと我に返った。早くしないと日が暮れて辻馬車がなくなってしまう。
「あのっ、服を! 服を交換してもらえませんか!? これ、ちょっと汚れちゃってるけど、洗えば大丈夫だと思うから」
「服を?」
突然の申し出に女は目を丸くした。
「わたし、行きたいところがあって、でもこの格好じゃ目立ってしまって……」
「それであの男たちに狙われたってわけか。あんた、いいとこのお嬢さんなんだろう? 家の人に迎えに来てもらった方がいいんじゃないのかい?」
慌てて首を振る。連れ戻されたりしたら、きっとあの世界から二度と抜け出せなくなってしまう。
「……実はわたし、里親のところを飛び出してきちゃって」
「やっぱり家出か。そんなこったろうと思ったよ。逃げ出したくなるほど嫌な里親だったのかい?」
「いえ、すごく良くしてもらってたんですけど……あのままあそこにいたら、好きでもないひとと結婚させられそうで……」
「なんだいそりゃ。貴族でもあるまいし、ひどい話だねぇ」
同情の瞳で女はルチアに服を用意してくれた。貴族街でもらったマントも上質すぎるので、薄いコートと交換してもらう。人目を引く赤毛を隠すためのスカーフも、女は快く譲ってくれた。
「行く前になんか食べてくかい? 大したもんは出せないけどさ」
テーブルにはふたり分の食事が並んでいる。ブルーメ家で用意されるものよりも、ずっと粗末で質素なものだ。それでもあたたかな家族の食卓に思えて、胸の奥がぎゅっと痛んだ。
「……早くしないと辻馬車がなくなっちゃうから」
「そうかい。じゃあ、気をつけて」
ふたりに見送られ玄関を出る。振り返り、ルチアは深々と頭を下げた。
「たくさんありがとうございました」
「ああ、本当に気をつけて。あたしたち、親の反対を押し切って一緒になったんだ。だから逃げ出したいあんたの気持ちもよく分かるよ」
仲睦まじく並ぶ夫婦は、互いを見つめ微笑み合った。せり出したお腹に手を当てて、女は甘えるようにもたれかかる。大男はその肩を愛おしそうに抱き寄せた。