嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
(そう言えば、この馬車でこんがり亭まで行けるのかしら……)

 闇雲に乗った馬車だったことを思い出す。

「あの、これはどこへ向かう馬車ですか?」
「なんだ、知らなくて乗ったのかい?」

 呆れつつも、男は行き先を教えてくれた。それはこんがり亭とはまったく別方向の街だった。

(どうしよう……)

 まもなく日が沈む頃合いだ。夜遅い辻馬車は数も少なく、旅の危険度も上がってくる。今夜のところはその街で宿を探すしかないだろう。

 降り立った街は思った以上に小さくて、宿屋は一軒も見つからなかった。かと言って雪が積もるこの季節に、野宿するのは自殺行為だ。
 途方に暮れていると、夕日に照らされる街並みにルチアはふと既視感を覚えた。

(ここ、この前カイと来た場所だ……)

 こんがり亭からの帰り道、この場所で辻馬車を降りてカイの別宅へ歩いて向かった。街の外れから一本道だったので、行き方はまだ頭に残っている。

 日が傾きかけた雪道を、ルチアは足早に進んだ。行くほどに、ふたりで歩いた日のことを思い出す。あの時ルチアは解放感から先へ先へと歩き、カイはのんびりと後ろをついてきた。同じ道なのに、今は不安で仕方がない。

(確かこの辺りで襲われたんだわ)

 森の中に入り、屈強(くっきょう)な男たちに囲まれた場所まで辿り着く。あの瞬間、自分から金色の火花が放たれて、吹き飛んだ男たちは雪の上を人形のように転がった。
 今、その名残(なごり)は何もない。新雪がきれいに降り積もっているだけだった。

「ベッティが言ってたように、ぜんぶ夢だったのかしら……」

 一緒にこの場にいたカイだけが、本当のことを知っているはずだ。襲ってきた男たちは幻だったのか。それと、カイがルチアに口づけたことも。

 甘い感触が蘇って、ルチアは無意識に唇を指でなぞった。自分の願望が、あんな夢を見させたのだろうか?

(今さらそんなこと考えて何になるっていうのよ!)

 すべてを振り払うように、ルチアは一本道を駆けだした。ほどなくして建物が見えてくる。家に明かりは灯っていなかった。
 ふいに庭の茂みで何かが動いた。驚いて歩みを止める。それは大きな犬のようで、すぐに茂みの奥に消えていった。

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