嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「あの、誰かいませんか?」

 本格的に日が沈んできて、暗がりの中で扉を叩いた。幾度かノックするものの、人が出てくる気配はない。カイはここを別宅だと言っていた。普段は使っていないのだから、誰もいなくて当然だ。

「はは、馬鹿みたい」

 もしかしたらカイに会えるかもしれない。そんな期待を抱いていた自分に気づく。

(カイがいたら連れ戻されるに決まってるじゃない。自分から逃げ出してきたくせに、何むちゃくちゃなこと思ってるのよ)

 辺りはすっかり暗くなり、来た道も目視(もくし)できなくなっている。おまけに雪がちらついてきて、今から街に戻るのも無理な状況だ。
 ルチアは寒さでぶるりと身を震わせた。走って汗をかいたので、急速に体が冷えてくる。このままここにいても凍え死ぬだけだ。

(どこか雪をしのげるところを探そう)

 軒先(のきさき)納屋(なや)のような場所がないか、ルチアは家の周りを見て回った。途中、窓から薄暗い部屋を覗くと、暖炉には小さく火種が灯っていた。強まった雪風が刺すように冷たくて、暖かそうな部屋の中が余計に恋しくなってくる。

「あっ!」

 目を凝らすと、暖炉の前に大きな犬が丸くなって眠っていた。先ほど庭で見かけた犬だ。家には誰もいなさそうなので、犬がひとりで出入りできる専用の扉があるのかもしれない。

 犬が消えていった雪の茂みを進み、暗がりで慎重に家の壁を探る。

(あった……!)

 庭木に隠れた低い位置に、中へと続く通路を見つけた。()つん()いになってそこを進む。胸とおしりがつっかえつつも、ルチアはなんとか家の中に入ることができた。ようやく安心できるところに辿り着き、その場にぺたりと座り込んだ。

 ほっとするのも束の間、低いうなり声が響いた。はっと顔を上げると、先ほどの犬が鼻先にしわを寄せすぐそこに立っている。
 近くで見ると思った以上に大きくて骨太(ほねぶと)な犬だ。長い耳に短い足、垂れ下がった(まぶた)愛嬌(あいきょう)があると言えなくもないが、今はものすごく怖い顔になっていた。

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