嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 不満を訴える腹に手を当て、空腹をごまかすように何度かさする。夕暮れ時の下町では、夕食の支度のにおいがあちこちから漂ってきていた。母アニサとの食事風景が思い出され、ルチアは唇をぎゅっと噛みしめた。

 ブルーメ家での食事はとても寂しかった。子爵との席は遠く、交わす会話などひとつもない。どんなに贅沢な食べ物が並べられていても、アニサと囲んだ温かな食卓とは比べ物になるはずもなかった。

「そうか……わたし、貴族が嫌なわけじゃなかったんだ……」

 きっと自分は寂しかったのだ。ブルーメ家では誰も“ルチア”を見てくれなかった。子爵家の令嬢として、事務的に接してくる使用人たち。義父となったブルーメ子爵にしても、イグナーツからの援助のために、ルチアを受け入れただけの話だろう。
 ただ欲しかっただけなのだ。下町で会った者たちのように、慈しみ合える居心地の良い居場所が。本当のルチアを見てくれる誰かが。
 その考えに至り、すとんとルチアの中で()に落ちた。

 失ったのなら新しく作ればいい。辻馬車で言われた言葉を思い返す。他人の持つものを(うらや)むばかりで、そんなことは思いつきもしなかった。

「頑張れば、あそこでも新しく作れたのかな……」

 扱いに戸惑いながらも、それでもブルーメ子爵はやさしく接してくれた。そう思うと、安易に贅沢な生活を手放したことが、なんだか急に馬鹿らしくなってきてしまった。
 今さら悔やんでも後戻りはできない。それは分かっているのに、疲れと空腹が相まって、負の感情がとめどなく押し寄せる。


「はぁ……わたし、ほんと何やってるんだろう……」

 テーブルにつっぷして、ルチアは今一度、大きくため息をついた。

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