嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 隠れ家に行く前に、諜報活動を引退した老夫婦の住まいに立ち寄った。この夫婦には家の管理とリープリングの世話を任せてある。そこで馬を預けると、カイは歩いて隠れ家へと向かった。
 敷地に入る手前でふと足を止める。続く一本道に、何者かの足跡が残されていた。

「誰かが訪ねてきたのか……?」

 降る雪でうっすらとしか確認できないが、大きさからすると子供か小柄な女のつけたもののようだ。戻ってきた痕跡はないので、まだ近くにいる可能性もある。この家の存在を知っている者はそう多くない。念のため、用心しながら進んでいった。

 建物の周囲にも足跡がつけられていたが、人がいる様子はなかった。見上げた二階の窓に、ほのかな明かりが揺れている。眉をひそめ、音を立てないよう慎重に扉を開いた。

 いつもなら、間髪(かんぱつ)おかずに飛びついてくるリープリングが出てこない。気配を探ると、階段上にいるのが分かった。
 普段二階には行かないようにと、リープリングには教え込んである。荒れた室内を見回してから、カイは気配を殺して階段を昇っていった。
 資料置き場として使っている部屋のドアの前で、リープリングはじっと伏せていた。カイの顔を見るなり、うれしそうに尾を振ってくる。

「しっ」

 騒がないようにおとなしくさせ、リープリングの頭を撫でた。曲者(くせもの)を追い込んで、逃げないようにと見張っていたのだろう。

「大手柄だね。このままここでじっとしてて」

 小声で言ってから、ドアの向こうの気配を探る。中にいる人間はひとりのようで、その覚えのある気配にカイは思わず目を丸くした。

「……リープリング。こんな時間に悪いけど、これ届けてきてくれる?」

 漏れそうになる笑いをこらえながら、(ふところ)から取り出した紙にペンをすべらせる。それをリープリングの首輪に仕込み、老夫婦の元に向かわせた。
 書いた内容は、ルチアを探し回っている者たちに、彼女が見つかったと知らせて欲しいと言うものだ。ベッティには隠れ家に来るようにとも書き添えた。

 ドアを開け、そうっと中に忍び込む。ルチアはテーブルにつっぷして眠っていた。そばにいた小さな異形が、近づくカイを威嚇(いかく)してくる。それを琥珀の火花で軽く弾くと、積み上がった本の影に隠れ、小鬼はぴるぴると震え出した。

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