嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「……迷惑かけてごめんなさい」
「そんなに今の生活嫌だった?」

 本格的に逃げ出したくなるほど思い詰めていたとは、カイにも思いもよらないことだった。ルチアがブルーメ家の養子となったのは、元はと言えばカイがハインリヒにそう上申(じょうしん)したからだ。あのときなぜそんなことを思ったのか、振り返ってみて自分でも不思議に思えた。
 ルチアが託宣を持つ者だと分かった時、ディートリヒ王はルチアを王族として迎え入れようとしなかった。そんな見放されたルチアに、(あわ)れみを感じたのかもしれない。彼女の理不尽(りふじん)な運命を知る者のひとりとして、せめて()(すえ)を見守ってやりたいと。

所詮(しょせん)、同病(あい)憐れむってやつだな)

 ともあれ、ルチアを貴族にしたのは自分の責任だ。ここは何とかしてやるべきだろうか。しかし王族の血を引く彼女を、手に届かない場所に置くのもまずいだろう。少なくともハインリヒはいい顔をしないと判断し、どうしたものかと思案した。

「ブルーメ家がどうしてもいやだって言うなら、オレがイグナーツ様に頼んであげてもいいけど」
「本当に?」

 こんがり亭あたりで面倒を見させれば、監視下に置くことはできるはずだ。下町に潜入する配下の者を増やすことで、ルチアの身の安全も確保されるに違いない。

 そこまで考えを巡らせて、カイは内心苦笑した。この少女に対して、なぜ自分はここまでのことをしようとするのか。
 元々ルチアを任されたのはイグナーツだ。ラウエンシュタイン家に王の勅命書一枚持って行けば、彼がいなくとも(しか)るべき対処を取ってくれるだろうに。

「いたっ」

 顔をしかめ、ルチアは無意識にさすっていた足から手を離した。確かめるようにスカートの位置をずらし、布を落とすと同時に再び顔を(ゆが)ませる。

「怪我してるの? 見せてみて」
「だ、大丈夫。ちょっと擦りむいただけだから」
「駄目だよ。化膿(かのう)でもしたらあとが大変だ」

 膝をつき足を手に取ろうとすると、ルチアは慌てて立ち上がった。

「大丈夫だってば」

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