嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
◇
夢見る瞳のルチアから、切なげなため息がこぼれた。手にしたクッキーを食べるでもなく、心ここにあらずに虚空を見つめ続けている。
貴族街で逃げ出したルチアは、結局ブルーメ家のタウンハウスに戻ってきた。あの日の脱走劇はなかったことになり、気分の悪くなったルチアが転んで大怪我を負ったという筋書きになり替わっている。
そんな状況でフーベンベルク家に世話になるわけにはいかないと、今は王都のタウンハウスで療養中だ。それを聞いたブルーメ子爵が、領地から急ぎ様子を見に来ると数日前に手紙が届いた。子爵到着の知らせを受けて、ルチアは出迎えるため立ち上がろうとした。
「いたた……」
「ああっルチア! 無理をしてはいかんのだなっ!」
子爵の声が大きく響く。養子となってから、子爵が語気を荒げることなど一度もなかった。ちょっとびっくりして、ルチアは中腰のまま動きを止めた。
「わしがそちらに行くのでな、ルチアはそのまま座っているといい、うん」
普段通りの穏やかな声で言われ、ルチアは素直に腰を下ろした。
「雪でたいへんなのに来させちゃってごめんなさい」
「そのようなことは気にしなくて良いのだな。大事なルチアが怪我したとあっては、様子を見に来ないわけにはまいらんのだ、うん」
怪我と言っても、脛の擦り傷はほぼ治りかけている。痛むのはむしろ、ひとには言えないようなルチアの大事な体の中心部だ。
後ろめたく思うのと同時に、カイにされたことが頭の中でリプレイされる。瞬間、ルチアの顔がぼっと真っ赤になった。
「おお、ルチア! まだ熱があるのだな。これはいかん、つらいようなら無理せず横になりなさい」
「い、いえ、起きてた方がむしろ楽なので」
なにしろ全身が筋肉痛だ。背中や腰、股関節も痛くって、歩くにも不格好にがに股になってしまう。
「ならば良いが無理をしてはいかんぞ。で、食事はきちんととれておるのかな?」
「はい、いつも通り頂いてます」
「そうか、それはよかった。ルチアのために滋養のつくものを急ぎ取り寄せねばな」
そこまで言うと、ブルーメ子爵は深い息をついた。その様子にやはり怒っているのかと、ルチアは不安げな顔となる。
「いや、安心しただけであるな。ルチアの顔を見るまで、ずっと気が気でなかったものでな、うん」
微笑んで、子爵は少し複雑そうな顔をした。
夢見る瞳のルチアから、切なげなため息がこぼれた。手にしたクッキーを食べるでもなく、心ここにあらずに虚空を見つめ続けている。
貴族街で逃げ出したルチアは、結局ブルーメ家のタウンハウスに戻ってきた。あの日の脱走劇はなかったことになり、気分の悪くなったルチアが転んで大怪我を負ったという筋書きになり替わっている。
そんな状況でフーベンベルク家に世話になるわけにはいかないと、今は王都のタウンハウスで療養中だ。それを聞いたブルーメ子爵が、領地から急ぎ様子を見に来ると数日前に手紙が届いた。子爵到着の知らせを受けて、ルチアは出迎えるため立ち上がろうとした。
「いたた……」
「ああっルチア! 無理をしてはいかんのだなっ!」
子爵の声が大きく響く。養子となってから、子爵が語気を荒げることなど一度もなかった。ちょっとびっくりして、ルチアは中腰のまま動きを止めた。
「わしがそちらに行くのでな、ルチアはそのまま座っているといい、うん」
普段通りの穏やかな声で言われ、ルチアは素直に腰を下ろした。
「雪でたいへんなのに来させちゃってごめんなさい」
「そのようなことは気にしなくて良いのだな。大事なルチアが怪我したとあっては、様子を見に来ないわけにはまいらんのだ、うん」
怪我と言っても、脛の擦り傷はほぼ治りかけている。痛むのはむしろ、ひとには言えないようなルチアの大事な体の中心部だ。
後ろめたく思うのと同時に、カイにされたことが頭の中でリプレイされる。瞬間、ルチアの顔がぼっと真っ赤になった。
「おお、ルチア! まだ熱があるのだな。これはいかん、つらいようなら無理せず横になりなさい」
「い、いえ、起きてた方がむしろ楽なので」
なにしろ全身が筋肉痛だ。背中や腰、股関節も痛くって、歩くにも不格好にがに股になってしまう。
「ならば良いが無理をしてはいかんぞ。で、食事はきちんととれておるのかな?」
「はい、いつも通り頂いてます」
「そうか、それはよかった。ルチアのために滋養のつくものを急ぎ取り寄せねばな」
そこまで言うと、ブルーメ子爵は深い息をついた。その様子にやはり怒っているのかと、ルチアは不安げな顔となる。
「いや、安心しただけであるな。ルチアの顔を見るまで、ずっと気が気でなかったものでな、うん」
微笑んで、子爵は少し複雑そうな顔をした。