嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 大きなクマの縫いぐるみふたつに挟まれて、リーゼロッテは自室の居間のソファで安堵の息をついた。

「ルチア様のお加減、大丈夫そうでよかったわ」

 エマニュエルの話では、転んで打ち付けた体が痛むだけで、それ以外は問題なく過ごせているとのことだった。お見舞いの品の中に傷薬と称して、リーゼロッテの涙入りスプレーも忍ばせておいた。あれを使ってもらえれば、さらに回復も早まるだろう。

「ヴァルト様とのお買い物に浮かれてる間に、ルチア様がそんな目に合っていたなんて。ね、アルフレートジュニア」

 左隣に座る黄色いリボンのクマに話しかける。この新顔は、先日行った貴族街でジークヴァルトに買ってもらったものだ。
 いや、正確に言うと、買ってくれと頼んだ覚えはひとつもない。令嬢時代にも連れて行かれた雑貨屋で、リーゼロッテは再びこのクマの縫いぐるみが売られているのを見つけた。囚われた神殿の部屋に置き去りにしてきた青いリボンのアルフレート二世が思い出されて、ちょっぴりアンニュイな気分でしばらく見つめ合ってみただけだ。

 しかし貴族街から帰ってみると、赤いリボンのアルフレートの横にもう一体のアルフレートがいた。そんなことをするのはジークヴァルトしか考えられない。
 驚きと呆れとうれしさが順番にやってきて、結局このクマには黄色いリボンをつけて、アルフレートジュニアと名付けることにした。

 大きなクマの縫いぐるみはあの店の名物で、年に一度くらいは誰かに買われていくらしい。もっぱら幼い令嬢への贈り物とのことで、その話は聞かなかったことにしたリーゼロッテだ。

「最近ではわたくしが買い占め状態だわ。ね、アルフレート」

 誰も見ていないのをいいことに、今度は右隣の赤いリボンの初代アルフレートに話しかける。公爵夫人となった身で、縫いぐるみとおしゃべりしているなどと知られたら激マズだ。

 しかしリーゼロッテは知らなかった。大きな縫いぐるみに挟まれて座る自分の姿が、どれほどメルヘンチックな様相を呈しているのかを。アルフレートたちに(うず)もれるリーゼロッテを見るたびに、エラなどは心の中でカメラの連射ボタンを押しまくっている。

「なんにせよ、次に行くときはアルフレートを増やさないように気をつけなくちゃ」

 夫婦となってからも、ジークヴァルトの破天荒(はてんこう)ぶりには驚かされる。ふふと笑ってから、リーゼロッテは両隣のもふもふと腕を組んだ。そのままふたりに身を預ける。

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