嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
フロアに足を踏み入れたふたりに、周囲が一気にどよめいた。身持ちの堅いグレーデン侯爵夫人が、夫であるエメリヒ以外の男と連れ立っている。しかもその男とは、夫人キラーで有名なあのカイ・デルプフェルトだ。
ざわめきが収まらないまま曲が流れだした。ダンスフロアに降り立った淑女たちのドレスが一斉に花開く。
カミラをリードしていく中、反対側のフロアに二曲続けて踊るリーゼロッテたちを見つけた。ジークヴァルトにしてみれば自分のものだと誇示をして、リーゼロッテを誰の手にも渡したくないに違いない。
踊りながらさりげなく、カミラがカイの耳元に顔を寄せてきた。その小声に意識を戻される。
「ねぇ、ブルーメ家に養子に入った赤毛の令嬢って、アニータの娘なんでしょう?」
ハインリヒの消えた託宣の相手を探すため、カイはカミラに秘密裏に会いに行ったことがある。カミラの情報通り、ルチアの母親は失踪した伯爵令嬢アニータであったものの、結局はアニータもルチアもハインリヒの託宣とは無関係だった。
ただアニータは王族の子どもを宿し、その子ルチアは龍から託宣を受けた身だったことが判明した。しかしそれが分かっても、先代王ディートリヒはルチアを王家に迎えることはしなかった。
「彼女はブルーメ家の遠縁の血筋だそうですよ」
「ふうん? そう言い張るのなら、そういうことにしといてあげるわ」
カミラはアニータを身ごもらせた王族の存在を知っている。当時後宮に幽閉されていたウルリヒ・ブラオエルシュタインだ。
アニータは生まれたばかりのルチアを連れて、元王妃イルムヒルデの手引きで王城から出奔した。恐らくは、降りた託宣の呪いから、ルチアを遠ざけ守るために。
「アニータも馬鹿よね。王家から逃げおおせたところで、龍に捕まるのは分かりきってるのに。事情なんて知らないし興味もないけれど、どうせ生まれた子を取り上げられたくないとかそんなくだらない理由だったのでしょう? 親などいなくたって、子どもなど放っておいても勝手に育つというのに……本当に愚かだわ」
「はは、その意見にはわたしも同意しますね」
カミラは父親に賭けの道具にされた挙句に他家へと捨てられ、カイは受けた託宣が理由で母親に最期まで拒絶され続けた。
家族意識が薄く、子育てを使用人任せにする貴族は少なからずいる。その中でも、自分たちはかなり特殊な部類と言えるのかもしれない。
「ちょっと、何を考えてるか知らないけれど、忌み児のあなたなんかと一緒にしないでちょうだい」
「もちろん分かっていますよ。カミラ様はティール家の宝、桃色姫でいらっしゃいましたからね」
「その呼び名はやめて。二度と聞きたくないわ」
「これは失礼を」
腰を支えターンしながら言うと、カミラが不機嫌そうに顔をしかめた。
ざわめきが収まらないまま曲が流れだした。ダンスフロアに降り立った淑女たちのドレスが一斉に花開く。
カミラをリードしていく中、反対側のフロアに二曲続けて踊るリーゼロッテたちを見つけた。ジークヴァルトにしてみれば自分のものだと誇示をして、リーゼロッテを誰の手にも渡したくないに違いない。
踊りながらさりげなく、カミラがカイの耳元に顔を寄せてきた。その小声に意識を戻される。
「ねぇ、ブルーメ家に養子に入った赤毛の令嬢って、アニータの娘なんでしょう?」
ハインリヒの消えた託宣の相手を探すため、カイはカミラに秘密裏に会いに行ったことがある。カミラの情報通り、ルチアの母親は失踪した伯爵令嬢アニータであったものの、結局はアニータもルチアもハインリヒの託宣とは無関係だった。
ただアニータは王族の子どもを宿し、その子ルチアは龍から託宣を受けた身だったことが判明した。しかしそれが分かっても、先代王ディートリヒはルチアを王家に迎えることはしなかった。
「彼女はブルーメ家の遠縁の血筋だそうですよ」
「ふうん? そう言い張るのなら、そういうことにしといてあげるわ」
カミラはアニータを身ごもらせた王族の存在を知っている。当時後宮に幽閉されていたウルリヒ・ブラオエルシュタインだ。
アニータは生まれたばかりのルチアを連れて、元王妃イルムヒルデの手引きで王城から出奔した。恐らくは、降りた託宣の呪いから、ルチアを遠ざけ守るために。
「アニータも馬鹿よね。王家から逃げおおせたところで、龍に捕まるのは分かりきってるのに。事情なんて知らないし興味もないけれど、どうせ生まれた子を取り上げられたくないとかそんなくだらない理由だったのでしょう? 親などいなくたって、子どもなど放っておいても勝手に育つというのに……本当に愚かだわ」
「はは、その意見にはわたしも同意しますね」
カミラは父親に賭けの道具にされた挙句に他家へと捨てられ、カイは受けた託宣が理由で母親に最期まで拒絶され続けた。
家族意識が薄く、子育てを使用人任せにする貴族は少なからずいる。その中でも、自分たちはかなり特殊な部類と言えるのかもしれない。
「ちょっと、何を考えてるか知らないけれど、忌み児のあなたなんかと一緒にしないでちょうだい」
「もちろん分かっていますよ。カミラ様はティール家の宝、桃色姫でいらっしゃいましたからね」
「その呼び名はやめて。二度と聞きたくないわ」
「これは失礼を」
腰を支えターンしながら言うと、カミラが不機嫌そうに顔をしかめた。