嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 ジークヴァルトを見やると、こちらは立ったままで紳士たちにぐるりと囲まれている。好奇に満ちた女性陣とは違って、みな恐る恐るジークヴァルトを取り巻いていた。

(とりあえずオレもあの中に入るか)

 今夜に限っては、火遊び希望のご夫人に捕まるのも厄介だ。レルナー公爵夫人の動向に気を配りつつ、ダンスに誘うチャンスをきちんと見定めなくては。

 移動する途中で、子爵夫人のエマニュエルを見つけた。彼女もリーゼロッテの元へと向かう様子だ。

「ブシュケッター子爵夫人」

 名案を思いついて、カイはとっさにエマニュエルを呼び止めた。少々強引なその態度に、エマニュエルの顔色が警戒を(はら)む。

「いいところで出会えました。今夜こそ、ダンスのお相手をしていただけませんか?」
「せっかくのお誘いですが、わたくしこれからリーゼロッテ様の元に……」

 エマニュエルは妖艶な美女とあって、男どもからのアプローチが絶えないでいる。しかしうまいこと理由をつけて、絶対に誘いに乗らないことで有名だ。あまりの(かたく)なな態度に、ふられた紳士の間では岩の女と(くさ)されていた。

「神殿での一件で、デルプフェルト家は随分とフーゲンベルク家に貢献したでしょう? そのねぎらいに、どうか一曲お相手を」
「分かりましたわ……では一曲だけ」

 リーゼロッテ奪還のことを持ち出すと、さすがのエマニュエルもしぶしぶカイの手を取った。ご夫人たちに囲まれるリーゼロッテを気にしつつ、おとなしくカイのエスコートについてくる。押し問答の時間が勿体(もったい)ないと判断したのだろう。早いところダンスを終えて、リーゼロッテの元へ駆け付けたいと思っているようだ。

 舞い戻ったダンスフロアに、再びどよめきが広がった。あの身持ちの堅いブシュケッター子爵夫人が、夫以外の男と連れ立っている。しかもその男とは、またまた夫人キラーのカイ・デルプフェルトだ。

 痛いほど視線を感じる中、曲が流れ出す。慣れた手つきでリードするカイに、エマニュエルが胡散(うさん)臭そうな視線を向けてきた。

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