嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「カミラ様のあとに、わたしまでダンスに誘うなど……デルプフェルト様、一体何をお(たくら)みですか?」
「今日はカチヤ様にフられましてね、ヤケになってるってところです」

 普段カイが近づくのは、未亡人や貞操観念の低い奔放(ほんぽう)な既婚者だけだ。地位や威厳ある家の人間には、間違っても手を出したりはしない。いまだ(いぶか)しげなエマニュエルに、カイは(ほが)らかな笑顔を返した。

「大丈夫、フーゲンベルク公爵夫人に迷惑をかけるようなことはしませんから」

 踊りながらも、エマニュエルはリーゼロッテの動向を気にし続けている。ジークヴァルトと引き離された状態で、淑女の洗礼に耐えられるか心配で仕方がないのだろう。

「そう思いになられるなら、引き留めないでいただきたかったですわ」
「ははは、そんなにご心配ですか?」

 そこまで過保護にしなくても、リーゼロッテならうまいこと切り抜けそうだ。確かに世間知らずだが、彼女は決して地頭(じあたま)は悪くないと思っているカイだった。

 曲が終わりを告げて、それでもエマニュエルは急ぎ足でリーゼロッテの元へと向かっていった。その背を見送って、カイは続けてダンスに誘う相手を物色し始めた。

 通常なら絶対に声掛けなどしないタイプの貞淑(ていしゅく)な既婚者を、手当たり次第に誘っていく。断る者が大半だったが、中には面白がって誘いに乗るご夫人もいた。


 カイの奇行は貴族たちの口々に乗せられて、あっという間に夜会中に知れ渡っていったのだった。

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