嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 カミラから一抹(いちまつ)の苛立ちを感じ取って、リーゼロッテはそこでようやくはっとなった。淑女同士の会話は何重にもオブラートに包まれている。言外に含まれた意図を()み取ってこそ、社交上手と呼ばれるものだ。

「ダーミッシュの母にもよくよく伝えておきますわ。カミラ様とお近づきになれて、母もよろこぶと思います」

 恐らくカミラはエデラー商会の化粧水を融通してほしいのだ。リーゼロッテから頼めば、クリスタもいやだとは言わないだろう。満足そうな笑みを返したカミラを見て、この返事が見当違いではないことを、リーゼロッテは強く確信した。

 ふいにエマニュエルと目が合った。遠巻きに見守っていた彼女から、よくできましたとばかりに微笑まれる。

(これでお飾りの公爵夫人でないことが示せたかしら……? あとでエマ様と反省会をしないとだわ)

 初めてのことだらけで、正解がまるで分らない。しかし大事な局面は乗り切ったようだ。リーゼロッテを中心に、そのあとしばらく他愛もない会話が続いた。

「ねぇ、みな様聞きまして? ダンスフロアでおもしろいことが起きていましてよ?」

 途中参加してきたご夫人が、興奮気味に会話に加わった。

「デルプフェルト家の五男坊が既婚者相手に、普段は見向きもしない方まで手当たり次第に声をかけていますのよ。周囲の反応がそれはそれは面白くて」
「まぁ、それであなたも誘われましたの?」
「ええ。もちろんお断りしましたけれど」

 一同の視線がダンスフロアへと集まった。興味津々に瞳を輝かせ、再びおしゃべりに花が咲く。

「あの方、最近ではカチヤ様と一緒にいることが多かったのに……」
「そうよね、臆面(おくめん)もなく今日も仲睦まじげに連れ立っておいででしたもの」
「なんでもデルプフェルト様はカチヤ様にふられたそうですわ」
「エマニュエル様、それは本当ですの!?」
「ええ、わたくしもダンスに誘われて……そのときにご本人がそのように」
「そういえばわたくし、先ほど鬼の形相でお帰りになるカチヤ様をお見かけしましたわ」
「まぁ、なんてこと!」

 ご夫人方が興奮気味に目を見開いた。子爵夫人のカチヤと言えば、曾祖母(そうそぼ)が王族の血筋なことを(かさ)に着て、高圧的な態度を取ることで有名だ。いやな思いをさせられた貴族は多く、社交界でも嫌われ者の筆頭(ひっとう)だった。
 最近も若い男を捕まえたとして、同年代のご夫人にモテる自分をアピールして、過剰なほどにマウントを取っていた。そんなご自慢の相手を彼女自らが手放すとは思えない。

 普段から既婚者と浮名を流しているカイ・デルプフェルトは、定期的に恋人を変えている。これはきっと、フラれたのはカチヤの方に違いない。

 そんなことを口々にささやきあって、密やかな(あざけ)りがあちこちから漏れて出る。その雰囲気が居心地悪く思えて、リーゼロッテは無言のまま笑みだけを保ち、聞き役に徹していた。

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