嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「それにフロアでは、待てども誘われない方が却って恥をかくような雰囲気でしてよ?」
「まぁ、なんて面白い! わたくしも誘われに行ってこようかしら」
収まらないおしゃべりが繰り広げられる中、ふいに談笑が途切れ、場が不自然に静まり返った。
リーゼロッテは目の前に立つ紳士を見上げ、見苦しくないよう努めて優雅に立ちあがった。そのままゆっくりと礼を取る。
「レルナー公爵様、ご挨拶が遅れました。フーゲンベルク公爵の妻、リーゼロッテでございます」
「いや、問題はありませんよ。フーゲンベルク公爵とは先にあちらで十分話をさせていただいた」
見やると、ジークヴァルトはいまだ紳士たちに囲まれている。こちらを気にしつつも抜け出せないでいるようだ。
「こうしてフーゲンベルク公爵家と懇意にできて、わたしもうれしい限りですな。夫人もご存じでしょう? 長い間あったレルナー家とフーゲンベルク家の軋轢を」
リーゼロッテは静かに頷いた。だがその原因は二代前の公爵間で起きたことだ。レルナー家の令嬢がフーゲンベルク公爵夫人の実家と縁を結ぼうとしている今が、関係を修復するいい機会だ。その考えは両家で一致して、この夜会へと招かれた経緯があった。
自分がフーゲンベルク家へと嫁いだことで、こんなふうに良い実を結んだことをリーゼロッテは誇らしく思った。淑女の笑みを向けると、レルナー公爵が軽く腰を折り、片手を差し伸べてくる。
「両家が再び手を取り合った記念に、一曲お相手いただけますかな?」
突然の申し出に、一瞬だけ躊躇する。ジークヴァルトに判断を仰ぎたいが、こう離れていてはそれもままならない。それにここで断りを入れるのは、レルナー公爵に恥をかかせることになってしまう。
これはレルナー家とフーゲンベルク家が、良好な関係を築いたことを示すための重要な社交なのだ。そう判断し、リーゼロッテはまずは戸惑うそぶりでレルナー夫人の顔を見やった。
「わたくしのことなら気になさらなくていいわ。どうぞ夫と踊ってらして」
夫人から了承を得ると、リーゼロッテは淑女の礼を取ってから、レルナー公爵にそっと手を預けた。
エスコートされてダンスフロアへと向かう。いまだ貴族に囲まれているジークヴァルトが視界の隅に入るが、状況的に止めに入ることはしないだろう。
ふわっと耳のピアスが暖かくなる。ジークヴァルトの熱だ。離れていてもそばにいる。青の波動を感じ取り、リーゼロッテは心強さに包まれた。
道があけられて、レルナー公爵とともにフロアの中心に立つ。
(異形の者にだけは注意しなくちゃ)
今の自分なら、トラブルなく誰とでも踊れるはずだ。胸の内で言い聞かせ、曲の始まりとともにステップを踏み出した。
「まぁ、なんて面白い! わたくしも誘われに行ってこようかしら」
収まらないおしゃべりが繰り広げられる中、ふいに談笑が途切れ、場が不自然に静まり返った。
リーゼロッテは目の前に立つ紳士を見上げ、見苦しくないよう努めて優雅に立ちあがった。そのままゆっくりと礼を取る。
「レルナー公爵様、ご挨拶が遅れました。フーゲンベルク公爵の妻、リーゼロッテでございます」
「いや、問題はありませんよ。フーゲンベルク公爵とは先にあちらで十分話をさせていただいた」
見やると、ジークヴァルトはいまだ紳士たちに囲まれている。こちらを気にしつつも抜け出せないでいるようだ。
「こうしてフーゲンベルク公爵家と懇意にできて、わたしもうれしい限りですな。夫人もご存じでしょう? 長い間あったレルナー家とフーゲンベルク家の軋轢を」
リーゼロッテは静かに頷いた。だがその原因は二代前の公爵間で起きたことだ。レルナー家の令嬢がフーゲンベルク公爵夫人の実家と縁を結ぼうとしている今が、関係を修復するいい機会だ。その考えは両家で一致して、この夜会へと招かれた経緯があった。
自分がフーゲンベルク家へと嫁いだことで、こんなふうに良い実を結んだことをリーゼロッテは誇らしく思った。淑女の笑みを向けると、レルナー公爵が軽く腰を折り、片手を差し伸べてくる。
「両家が再び手を取り合った記念に、一曲お相手いただけますかな?」
突然の申し出に、一瞬だけ躊躇する。ジークヴァルトに判断を仰ぎたいが、こう離れていてはそれもままならない。それにここで断りを入れるのは、レルナー公爵に恥をかかせることになってしまう。
これはレルナー家とフーゲンベルク家が、良好な関係を築いたことを示すための重要な社交なのだ。そう判断し、リーゼロッテはまずは戸惑うそぶりでレルナー夫人の顔を見やった。
「わたくしのことなら気になさらなくていいわ。どうぞ夫と踊ってらして」
夫人から了承を得ると、リーゼロッテは淑女の礼を取ってから、レルナー公爵にそっと手を預けた。
エスコートされてダンスフロアへと向かう。いまだ貴族に囲まれているジークヴァルトが視界の隅に入るが、状況的に止めに入ることはしないだろう。
ふわっと耳のピアスが暖かくなる。ジークヴァルトの熱だ。離れていてもそばにいる。青の波動を感じ取り、リーゼロッテは心強さに包まれた。
道があけられて、レルナー公爵とともにフロアの中心に立つ。
(異形の者にだけは注意しなくちゃ)
今の自分なら、トラブルなく誰とでも踊れるはずだ。胸の内で言い聞かせ、曲の始まりとともにステップを踏み出した。