嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 ざわついたダンスフロアの中心に、カイは視線を向けた。大方の夫人を誘い終えて、フロアを出た矢先のことだ。
 レルナー公爵とリーゼロッテが手を取り合ってフロアの中央に進んでいる。とっさにジークヴァルトの姿を探すと、案の定にらみつけるようにふたりを目で追っていた。

(はは、いつの間にこんな面白いことに)

 大方、紳士に囲まれている(すき)に、レルナー公爵に出し抜かれたのだろう。(おおやけ)の場でジークヴァルトが、リーゼロッテに男を近づけさせないのは貴族の間では周知のことだ。

 しかしこれは絶好の機会だ。カイは急ぎレルナー公爵夫人の元へと向かった。
 多くの貴族が見守る中、大仰に腰を折り、カイはレルナー夫人に手を差し伸べる。

「今宵、こうして貴女と出会えましたこと、奇跡に感じております。レルナー公爵夫人、哀れな男の儚い願いだと思って、どうぞひと夜限りの栄誉をお与えください」

 もったいぶった態度をとりつつも、レルナー夫人はまんざらでもない表情でカイの手を取った。公爵夫人としてリーゼロッテとのダンスを認めたものの、若い女に鼻の下を伸ばす夫を快く思っていないのだろう。ここで自分がカイと踊ってみせれば、レルナー公爵に一矢(いっし)(むく)いることができるというものだ。

 そんな夫人の胸中を利用して、カイはまんまとダンスフロアに連れ出すことに成功した。ざわつくフロアをしり目に、流れ出した音楽に乗せて夫人をリードし始める。

「ねぇ、あなた、今宵は随分とおいたをしているようね?」
「本命ははじめからゾフィー様、貴女だけでした。この手に届かない貴女に焦がれ、自棄(やけ)になっていたことは認めます。ですからそのように誤解なさらないでください」
「まぁ」
「ああ……今こうして貴女のお手を取ってふたりで踊っているなど、本当に夢のようです」

 うっとりと目を細め、カイは夫人をまっすぐに見つめた。決して嘘は言っていないので、良心はひとつも痛まない。ぽっと頬を染めたレルナー夫人は、それでも威厳を保つようにつんと顔をそらして見せた。

「ふん、うまい口だこと」
「わたしの思いをお疑いですか? その気高きお心に、わたしはどうしようもなく惹かれてしまうのです」

 自尊心を満たすような言葉を並べ立て、カイはレルナー夫人の耳元に顔を寄せた。嫌がらないところを見ると、夫人も(えつ)に入っているようだ。

「貴女のしあわせを遠くから願うしかできないわたしの言葉を、どうか聞き届けてください」

 恋人に愛を語らうように、カイは尚も囁きかける。

「ハインリヒ王は秋にお生まれになる御子が、男児ならゾフィー様のご子息を側近に、女児ならば将来の伴侶にと考えておられるようです。このことを踏まえ、どうぞ先々の選択を、くれぐれも慎重になさいますよう申し上げておきます」

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