嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 夕食も済ませ、あとはジークヴァルトが戻ってくるのを待つばかりだ。空いた時間に縫い針片手に、チクチクと布を縫う。作っているのは赤ん坊のおくるみだ。

(できあがるまでエラに見つからないといいけど……)

 エラには内緒でロミルダに手伝ってもらっている。出産予定日は来年の春なので、不器用なリーゼロッテでも十分に間に合うだろう。

「赤ちゃんかぁ」

 ずっとそばにいてくれたエラが母親になる。うれしく思うのと同時に、エラを取られてしまうというような、なんとも子どもじみた感情も湧いてくる。一抹のさみしさを感じつつ、リーゼロッテは人生の不思議に思いを巡らせた。

 異世界だなんだと突っ込みを入れつつ、今、自分はこの世界に生きている。日本の記憶があろうと、リーゼロッテとしてこれからも人生を歩むのだ。

(言われてみれば、わたしもいつ妊娠してもおかしくないのよね)

 公爵夫人となったからには、跡継ぎを産むことが最大のミッションと言える。そもそも龍から賜った託宣が、ジークヴァルトの子供を授かるというものだった。
 自分が子を産み育てると想像しても、しかしいまいちピンとこない。まだまだジークヴァルトとふたりで過ごしていたいなどと思ってしまう自分がいた。

(子は授かりものって言うし、気にしていても仕方ないけど……)

 公爵夫人としてうまくやっていけるか、不安に思う気持ちがむくむく育つ。みなが支えてくれているのは分かっているが、何よりジークヴァルトの恥や負担にはなりたくなかった。

 扉が開く音がして、リーゼロッテはパッと顔を上げた。縫い物を(かご)に戻して、すぐさまジークヴァルトに駆け寄った。

「お帰りなさいませ」
「ああ」

 ひょいと腕に抱き上げられる。子ども抱きのまま、唇を塞がれた。

「ん……ヴァルト様、お食事は……」
「もう済ませた」

 なかなか唇を離してくれなくて、ジークヴァルトにしがみついたまま下に降ろされる。口づけが続く中、やわらかい枕に頭が沈んだ。気づくともう寝台の上だった。

「ヴァルト様、わたくしまだ眠くはありません……わ?」

 自分の姿を見て、リーゼロッテは思わずひゃあ、と悲鳴を上げた。いつ脱がされたのか、着ていたはずのナイトガウンがなくなっている。その下に身に着けていたのは、純白透け透けのキャミソールだ。

 アンネマリーがやたらとえっちぃ夜着を贈ってくるものだから、新婚となってから日替わりでそれを着せられている。エラが笑顔で差し出してくるので、嫌とは言えないリーゼロッテだ。

(いつもは暗がりでやり過ごしてたのに……!)

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