嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
レルナー公爵にはまだ幼い息子がひとりいる。兄の遺児であるツェツィーリアを嫁に出してしまえば、跡目を継ぐのはその子しかいなくなる。それで完全にレルナー家は現公爵のものとなるため、レルナー夫妻は自分たちにいちばん都合の良い義娘の嫁ぎ先を、躍起になって探していた。
それがダーミッシュ家に決まった今、次は息子の嫁探しだ。レルナー家とつり合いが取れて、最も利益を生み出すそんな家が理想的だ。今のところ候補としては、反王家派の侯爵家が上がっていた。
そんな状況であるときに、カイが発した先ほどの言葉だ。レルナー夫人は目をかっぴらいて鼻息を荒くした。王家とつながりが持てるなら、そんな栄誉なことはない。
この国で五つある公爵家の中でも、ここ数代レルナー家は王家からないがしろに扱われている。レルナー家はフーゲンベルク家に次ぐ歴史ある家柄だ。それなのに、いちばん歴史の浅いザイデル家から王妃が誕生して以来、目に見えない格差は広がるばかりだった。
それがハインリヒ王の御代で挽回できる。未来の王の側近となるか、王女を妻として迎えるか。アンネマリー王妃が子を産むまではどちらになるかは分からないが、どのみち反王家派の家と懇意にするのは、その道を断つことになりかねない。
「これもゾフィー様、貴女のしあわせを願ってこその進言です。ご子息とともにレルナー家が輝かしい道を進まれますこと、このカイ・デルプフェルト、陰ながら見守っております」
「そ、そう。そこまで言うなら、一応、心に留めておきましょう」
気のない返事をしつつ、レルナー夫人は気もそぞろに顔を紅潮させている。正式な王の言葉ではないため、将来どうとでもできる内容だ。この言葉を公爵がどう受け取るかは分からない。だが夫人の反応を見ると、レルナー家が王家の敵に回る可能性は低いだろう。
不穏な芽はできる限り早い段階で摘んでおきたい。そんなハインリヒの思惑通りに事が運んで、これでカイの任務も無事完了となった。
タイミングよく曲が終わり、賓客を扱う態度で夫人をレルナー公爵の元へとエスコートしていく。リーゼロッテを連れた公爵と出くわして、なんとも微妙な顔を返される。しかし夫人の方は最早それどころではなさそうだ。先ほど耳打ちされたことを、早く夫に伝えたくて仕方ないようだ。
笑顔で夫人を公爵に引き渡す。リーゼロッテの視線を感じたが、あえてそれに気づかないふりをした。すぐそこにまで来ているジークヴァルトの気配を察知して、カイはその場をそそくさと離れた。
足早に歩を進め、さりげなく後ろを振り返る。仏頂面のジークヴァルトがリーゼロッテを連れて、会場を後にするのが見えた。これ以上ほかの男にダンスを申し込まれでもしたら、本気で暴れ出すに違いない。
(まぁ、これからも断り切れない誘いはあるだろうから、今のうちに一度暴れといた方がいいかもね)
そうすればリーゼロッテに近づこうとする馬鹿も減るだろう。そんなことを思って、カイは夜会の喧騒に背を向けた。
それがダーミッシュ家に決まった今、次は息子の嫁探しだ。レルナー家とつり合いが取れて、最も利益を生み出すそんな家が理想的だ。今のところ候補としては、反王家派の侯爵家が上がっていた。
そんな状況であるときに、カイが発した先ほどの言葉だ。レルナー夫人は目をかっぴらいて鼻息を荒くした。王家とつながりが持てるなら、そんな栄誉なことはない。
この国で五つある公爵家の中でも、ここ数代レルナー家は王家からないがしろに扱われている。レルナー家はフーゲンベルク家に次ぐ歴史ある家柄だ。それなのに、いちばん歴史の浅いザイデル家から王妃が誕生して以来、目に見えない格差は広がるばかりだった。
それがハインリヒ王の御代で挽回できる。未来の王の側近となるか、王女を妻として迎えるか。アンネマリー王妃が子を産むまではどちらになるかは分からないが、どのみち反王家派の家と懇意にするのは、その道を断つことになりかねない。
「これもゾフィー様、貴女のしあわせを願ってこその進言です。ご子息とともにレルナー家が輝かしい道を進まれますこと、このカイ・デルプフェルト、陰ながら見守っております」
「そ、そう。そこまで言うなら、一応、心に留めておきましょう」
気のない返事をしつつ、レルナー夫人は気もそぞろに顔を紅潮させている。正式な王の言葉ではないため、将来どうとでもできる内容だ。この言葉を公爵がどう受け取るかは分からない。だが夫人の反応を見ると、レルナー家が王家の敵に回る可能性は低いだろう。
不穏な芽はできる限り早い段階で摘んでおきたい。そんなハインリヒの思惑通りに事が運んで、これでカイの任務も無事完了となった。
タイミングよく曲が終わり、賓客を扱う態度で夫人をレルナー公爵の元へとエスコートしていく。リーゼロッテを連れた公爵と出くわして、なんとも微妙な顔を返される。しかし夫人の方は最早それどころではなさそうだ。先ほど耳打ちされたことを、早く夫に伝えたくて仕方ないようだ。
笑顔で夫人を公爵に引き渡す。リーゼロッテの視線を感じたが、あえてそれに気づかないふりをした。すぐそこにまで来ているジークヴァルトの気配を察知して、カイはその場をそそくさと離れた。
足早に歩を進め、さりげなく後ろを振り返る。仏頂面のジークヴァルトがリーゼロッテを連れて、会場を後にするのが見えた。これ以上ほかの男にダンスを申し込まれでもしたら、本気で暴れ出すに違いない。
(まぁ、これからも断り切れない誘いはあるだろうから、今のうちに一度暴れといた方がいいかもね)
そうすればリーゼロッテに近づこうとする馬鹿も減るだろう。そんなことを思って、カイは夜会の喧騒に背を向けた。