嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「疲れただろう?」
「少しだけ……」

 久しぶりの夜会で、確かに疲れきってしまった。でもそれは緊張からくる気疲れが大半を占めている。

(ああ……やっぱりここがいちばん安心できる)

 胸に耳を押し当てると、聞き慣れた鼓動がリズムを刻む。青の波動の心地よさに包まれて、リーゼロッテは(まぶた)を閉じた。無言でいてもこの空間は、とろけるような至福で満たされる。

 走り出した馬車の中、ジークヴァルトが()い上げられた髪から(かんざし)を一本引き抜いた。かと思うと、奥に仕込まれたピンを次から次に外していく。

「ヴァルト様……?」

 外したピンをそこら中に放り投げていくジークヴァルトを、戸惑ったままリーゼロッテは見上げた。(ほぐ)された髪がふわりと広がり落ちていく。

 大方ピンを引き抜くと、今度はいきなり足首をつかまれた。抗議の声を出す前に、ヒールの高い靴が脱がされる。靴をおざなりに床へ転がすと、ジークヴァルトはゆっくりと髪を()きだした。

 夜会巻きはきつく髪を結うため、(ほど)かれてずいぶん楽になった。窮屈(きゅうくつ)な靴を脱いだ足の爽快感は言わずもがなだ。乱暴な気遣いに呆れもするが、やはりうれしさの方が(まさ)っていた。

「着くまで眠っていろ」
「はい、ありがとうございます、ヴァルト様……」

 再び胸に身を預け、息をついて(まぶた)を閉じる。訪れたまどろみの中、青の力を流し込みながら、長い指がやさしく髪を梳いていく。

(今少しでも眠れたら、屋敷に戻ってからもうひと踏ん張りできそうだわ)

 家に帰るまでが遠足とよく言うが、夜会に関しては帰ってからもやることが山盛りだ。
 重いドレスを数人がかりで脱がせてもらい、脱力した体で湯あみに向かう。濃く施された化粧を落とし、念入りに肌を整えることも必要だった。結い上げた髪は香油を多く使うので、洗うのは普段以上に苦労する。エラが手伝ってくれるが、今までも眠い目をこすって半分寝ながらこなしていた。

(それに明日はきっとゆっくり眠れないだろうから、今夜中にしっかり体力を回復しとかないと……)

 ここ一週間、ジークヴァルトと身を繋げていなかった。月のもののあとのジークヴァルトは、いつも以上にしつこくねちっこい。明日の夜も覚悟しておくしかないだろう。

 とにかく今夜はやることをやったら、早く眠ってしまいたい。屋敷に着くまでの時間、リーゼロッテは短いまどろみに意識を沈めた。

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