嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
      ◇
 起こさないようにと、慎重に抱き上げる。よほど疲れたのか、部屋に戻ってもリーゼロッテは深く寝入ったままだ。
 寝台に横たえると、スカートのドレープがはみ出すように広がった。夜会のドレスは細い腰がさらに締めつけられている。それがどうにも痛々しく感じてしまう。

「旦那様、あとはわたしたちにお任せを」
「いい、オレがやる。お前たちはもう下がれ」
「ですが……」

 ロミルダとエラが顔を見合わせ、困った顔をした。

「……分かりました。御用がございましたらすぐにお呼びください」
「ああ、何もなければ、昼まで顔を出さなくていい」

 ふたりが出ていくと、部屋に静寂が降りる。リーゼロッテが息苦しそうに身じろいだ。そっと体を起こし、飾りのリボンの下に隠されていた(ぼたん)を順に外していく。

 背中側、肩口の白い肌の上に、行きの馬車でつけた所有のしるしが刻まれている。見えそうで見えない絶妙な位置だ。だがそれは見えなそうでいて、真上から見下ろすと覗きこむことのできる、そんな位置でもあった。

 リーゼロッテと踊ったあの男も、この(あと)を見ただろうか。軽率な自分の行為にジークヴァルトは苛立った。

 新婚貴族を捕まえてなされる無遠慮な会話は、くだらないほど低俗で()()けだ。男だけの集まりなら尚のこと、彼女との秘め事を想像させる言葉に、抑えようのない殺意が湧き上がった。

 その頭の中で、リーゼロッテが服を脱がされにかかっているのかと思うと、目の前の男どもを全員、呪い殺してしまいたかった。彼女を知る者は自分だけでいい。この世のすべての人間の記憶から、彼女の存在を消し去ってしまえたら。そんな馬鹿げたことを本気で願った。

 重いドレスを脱がし、遠くに放り投げる。きつく絞めあげられたコルセットの(ひも)を緩めると、リーゼロッテは大きく息を吸いこんだ。胸郭(きょうかく)が最大限広がって、次いでゆっくりと息を吐く。

「ん、エラ……? ごめんなさい、わたくし寝てしまっていて……」

 寝ぼけ(まなこ)のまま、リーゼロッテがこの顔を見た。不思議そうに小首を傾ける。

「じーく……ヴぁるとさま?」

 たまらなくなって口づけた。リーゼロッテの瞳に映るのは、自分ひとりだけでいい。このまま永遠に閉じ込めてしまいたい。もう二度と、誰の手にも触れさせないように。

< 54 / 302 >

この作品をシェア

pagetop