嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「リーゼロッテ……」
「あ……ヴぁるとさ……ま……」

 漏れる吐息すら飲み込むように、深く深く口づける。

 手にさえすれば、満足すると思っていた。自分のものにしてしまえば、(かわ)きのすべてが消え去ると、そうずっと信じていた。

 リーゼロッテは光だ。多くの人間が吸い寄せられて、いつだって彼女はその中心にいる。

 まばゆく光が増すほどに、ジークヴァルトの闇が際立(きわだ)った。深く重い漆黒(しっこく)(おり)の中、彼女に向かってこの手を伸ばす。掴んでも掴んでもすり抜けていきそうで、得体の知れない焦りと恐怖に、どうしようもなく追い立てられた。

 腕の中のリーゼロッテをさらにきつく抱きしめる。
 華奢な背に滑らせた手の動きに、くすぐったそうに身をよじらせた。

「や……ヴぁるとさま、今夜はもぅ……」
「駄目だ、ここが気持ちいいだろう?」

 疲れている彼女を休ませなくてはと頭では考える。だがこの衝動を、抑えることなどできはしなかった。

 ジークヴァルトはリーゼロッテに対して、(りっ)していることがふたつだけある。そのひとつは、彼女が眠っているときは、決して手を出さないということだ。父ジークフリートに言われたことを、ジークヴァルトはこれまで律儀に守ってきた。
 だが今、リーゼロッテは自分を瞳に映している。与える刺激に反応し、切なげな吐息をもらし続けている。

 やめる理由が見当たらなくて、ジークヴァルトはリーゼロッテの鼻先にやさしい口づけを何度も落とした。

「あ……や、ヴぁ……るとさま……」

 (すが)りつく背を片手で支える。
 しなやかに反りかえる(のど)を唇で追いかけた。逃げる体を膝に乗せ、追い立てるように夫婦の夜にもつれ込む。
 首にしがみつくリーゼロッテが、耳元で熱い吐息を漏らした。

「も、こんやは……ぁるとさま」
「まだだ。まだ足りない、リーゼロッテ」

 何度も夜を共にして、すべてを知り尽くしたはずだった。
 それでもこの瞬間、リーゼロッテはジークヴァルトの名しか発しなくなる。
 リーゼロッテを取り巻くすべてが、自分一色で塗りつぶされる。その世界を、永久のものにしてしまいたい。

 彼女が慣れるまでは夫婦の営みで決して暴走しないように。マテアスからそう強く言われていた。
 律儀に守る二つ目の戒律(かいりつ)を前に、ジークヴァルトはなんとか理性を取り戻す。

「……るとさま……?」

 動きを止めたジークヴァルトを、リーゼロッテが物足りなそうに見上げてくる。その唇を塞ぎ、腕の中に閉じ込めた。
 自らが与える刺激に、リーゼロッテが反応を返す。その事実が、ジークヴァルトをどうしようもなく興奮させた。
 彼女をこんな姿に変えられるのはこの世で己ただひとりだ。

 永遠にリーゼロッテに包まれていたい。
 リーゼロッテが眠りに落ちるまで、ジークヴァルトは止まれなかった。

 狂喜と見まがう至福に溺れ、互いの感覚を分け合いながら、その夜もふたりはひとつに溶けていった。


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