嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
◇
出される菓子の確認を厨房で済ませ、茶会の席の最終チェックへと向かう。テーブルクロスに使用する茶器、飾りの花に至るまで、すべて最高級の品が揃えられた。リーゼロッテに恥をかかせるわけにはいかない。なんとしても今日の茶会を成功に導かなくては。
頭の中でもてなしのシミュレーションをしながら、エラは急ぎ廊下を進んだ。ここまで来れば、あとは客人の到着を待つばかりだ。少しばかり気が緩んだときに、胃のむかつきがこみ上げた。
(こんなときにもう……!)
周囲に人がいないことを確かめて、エラは大きめの飴玉を口に含んだ。こうすると悪阻の症状がひとときごまかされる。今はつらいなどと弱音を吐いている場合ではない。
「具合が悪いのか?」
「ぅぐっ」
気配なく背後から声をかけられ、驚きのあまり飴玉をまるごと飲み込んでしまった。喉を抜けた塊の感触に動揺しつつ、振り向いた先の人物に再び動揺が走った。
「エーミールさっ、いえ、グレーデン様、申し訳ございませんっ」
声をかけられるまで気づかなかったことの謝罪を込めて、エラは慌てて礼を取った。自分はもう貴族ではない。使用人としての礼節を、絶対に守らなければならない立場となった。
それに平民となった自分など、気位の高いエーミールは興味も示さないはずだ。奥に生まれ落ちた痛みを無視して、エラはじっと頭を下げ続けた。
(どうして行ってくれないの……?)
一向に立ち去ろうとしないエーミールの靴のつま先を見つめながら、次第に吐き気の波が押し寄せてくる。このまま下を向いていると、本当に胃の中身がせり出しそうだ。
「顔色が悪い。やはり気分がよくないのだな」
「え……?」
手を引かれ、廊下に置かれた長椅子に座らされる。戸惑って見上げると、エーミールは通りすがった使用人の男に声をかけた。
「おい、お前。ロミルダを呼んで来い。今すぐだ」
「は、はいっ、ロミルダですねっ、すぐ連れてきますっ」
エーミールが使用人に声がけするなどまずないことだ。足をもつれさせながら、男は廊下を駆けて行った。それを目で追ったあと、エーミールは当たり前のようにエラの横へと腰かけた。
出される菓子の確認を厨房で済ませ、茶会の席の最終チェックへと向かう。テーブルクロスに使用する茶器、飾りの花に至るまで、すべて最高級の品が揃えられた。リーゼロッテに恥をかかせるわけにはいかない。なんとしても今日の茶会を成功に導かなくては。
頭の中でもてなしのシミュレーションをしながら、エラは急ぎ廊下を進んだ。ここまで来れば、あとは客人の到着を待つばかりだ。少しばかり気が緩んだときに、胃のむかつきがこみ上げた。
(こんなときにもう……!)
周囲に人がいないことを確かめて、エラは大きめの飴玉を口に含んだ。こうすると悪阻の症状がひとときごまかされる。今はつらいなどと弱音を吐いている場合ではない。
「具合が悪いのか?」
「ぅぐっ」
気配なく背後から声をかけられ、驚きのあまり飴玉をまるごと飲み込んでしまった。喉を抜けた塊の感触に動揺しつつ、振り向いた先の人物に再び動揺が走った。
「エーミールさっ、いえ、グレーデン様、申し訳ございませんっ」
声をかけられるまで気づかなかったことの謝罪を込めて、エラは慌てて礼を取った。自分はもう貴族ではない。使用人としての礼節を、絶対に守らなければならない立場となった。
それに平民となった自分など、気位の高いエーミールは興味も示さないはずだ。奥に生まれ落ちた痛みを無視して、エラはじっと頭を下げ続けた。
(どうして行ってくれないの……?)
一向に立ち去ろうとしないエーミールの靴のつま先を見つめながら、次第に吐き気の波が押し寄せてくる。このまま下を向いていると、本当に胃の中身がせり出しそうだ。
「顔色が悪い。やはり気分がよくないのだな」
「え……?」
手を引かれ、廊下に置かれた長椅子に座らされる。戸惑って見上げると、エーミールは通りすがった使用人の男に声をかけた。
「おい、お前。ロミルダを呼んで来い。今すぐだ」
「は、はいっ、ロミルダですねっ、すぐ連れてきますっ」
エーミールが使用人に声がけするなどまずないことだ。足をもつれさせながら、男は廊下を駆けて行った。それを目で追ったあと、エーミールは当たり前のようにエラの横へと腰かけた。