嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「リーゼロッテ奥様の初めてのお茶会だものね。エラは最後まで自分で仕切りたいでしょう? 招待客が到着するまでまだ時間があるし、それまではしっかり休んでいてちょうだい。無理なようならわたしもいるから。もっと肩の力を抜いて、ね?」
「ありがとうございます、ロミルダ」
「可愛い嫁と孫のためだもの。何かあったら遠慮なく言って」

 茶会の席の最終チェックはロミルダに任せることにして、エラは一度部屋へと戻った。居間のソファで息をつき、(まぶた)を閉じる。
 マテアスと過ごすこの部屋も、随分となじんできた。初めは書類やら本やらで雑然としていたここも、今では居心地よく整頓されている。

 あれでいて、自分のことになるとマテアスは割といい加減だ。衣類は適当に脱ぎ散らかされているし、食べかけ飲みかけの物もよく放置されている。普段、(すき)ひとつ見せないマテアスの意外な側面に、エラは最初驚いた。
 だがエラ以上に忙しい身を思うと、それも仕方のないことだ。横で寝ていた形跡はあっても、朝、顔を見ない日もしばしばだ。

(そんな中、ずっとわたしの護身の鍛錬につきあってくれていたのよね……)

 結婚してからというもの、早朝訓練は中断している。夫婦の営みに時間を取られて、それどころではなかったからだ。

 そこまで思って、エラはひとり顔を赤らめた。

 夜のマテアスは、また違った顔を見せてくる。多分、あれも自分しか知らない姿なのだろう。いや、マテアスは過去、恋仲だった女性が何人かいたようだ。それを知った時のもやもや感が、今、急に胸にこみ上げてきた。そのことにエラは驚き、同時にくすりと笑みを漏らした。

「エラ? 大丈夫ですか? ロミルダから具合が悪いと聞きました」

 慌ただしく駆け込んできたマテアスを笑顔で迎える。目が回るほど忙しいだろうに、わざわざ合間に抜けてきてくれたのだろう。
 片膝をつき、確かめるようにマテアスはエラの頬に手のひらを添えた。

「顔色は悪くなさそうですね」
「ごめんなさい、心配かけて。少し休んだのでもう大丈夫です」
「そうですか。安心しました」

 ほっとした顔をされ、エラは少しばかり申し訳ない気持ちになる。
 妊娠が分かってからも、エラはリーゼロッテの世話を人任せにはできなかった。ロミルダもマテアスも、その気持ちを尊重してくれている。侍女長としての役割も手を抜くことはしたくなくて、体調的に随分と無理をしている自覚はあった。

 それを知りつつも、マテアスは黙って見守ってくれている。そこに信頼と愛情を感じ取って、むず痒いようなよろこびの種が、エラの奥にいつしか芽吹いた。

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