嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「リーゼロッテ様、この度はご結婚おめでとうございます。改めてお慶び申し上げますわ。ふふ、わたくしたちの中では、リーゼロッテ様がいちばん乗りでしたわね」
「ありがとう、ヤスミン様。急の王命を頂いてわたくしも驚きましたの。婚姻は本当にあっという間のことでしたわ」

 ヤスミンとイザベラ、それにクラーラは、リーゼロッテと同じ年に社交界デビューを果たしている。王妃となったアンネマリーも含めて、みな龍暦八百二十九年デビュー組だ。

「ヤスミン様こそご婚約おめでとう。婚姻はいつごろの予定ですの?」
「来年の夏に嫁ぐことになりましたわ」
「ヤスミン様も物好きね、子爵家なんかに嫁ぐだなんて。しかもカーク家と言ったら随分と田舎貴族じゃない」

 イザベラのぶっこみに、場が一瞬静まりかえった。婿養子を迎えて侯爵家を継ぐ予定だったヤスミンは、ヨハンと恋に落ち子爵家に嫁ぐ道を選んだ。貴族では珍しい恋愛結婚だ。

「田舎暮らしも案外悪くはなくってよ。空気も澄んでいて、王都にはない良さがありますもの」
「わたくしもカーク家には一度お邪魔したことがありますけれど、とてもよいところでしたわ」

 早くもイザベラ警報発令だ。ヤスミンは気にも留めていない様子だが、冷や汗をかきつつリーゼロッテはすかさずフォローを入れた。

「式もカーク家の庭園で行うことになりましたの。今から何かと準備が忙しくて。みな様もぜひ出席していただきたいですわ」
「そういえばリーゼロッテ様は結婚式はなさらないの?」

 びよんと縦ロールを揺らしながら、イザベラがヤスミンの言葉をさえぎった。子爵家に嫁ぐと分かった時点で、ヤスミンを格下認定したようだ。

「わたくしたちはシネヴァの森で婚姻の神事を行ってきましたから」
「まぁ、随分と古臭い。神事と式はまた別の話でしょう? 婚姻のお披露目の夜会も開いていらっしゃらないし、公爵家の名が聞いて呆れますわね。このままではいい笑いものになりましてよ?」
「神事は王命でしたし、それにクリスティーナ様のことがありましたから……今は式を挙げたり、そんな浮ついた気持ちにはなれなくて……」

 (うれ)いを帯びた瞳でリーゼロッテは(うつむ)いた。式も夜会もしないのは、異形が騒ぐと危険だからだ。だが対外的には、亡くなった第一王女の喪に服すためということにしてあった。

「でも王族以外は喪が明けてますでしょう? ハインリヒ王も気にせず夜会などを催すようお触れを出しているのに」
「わたくしもジークヴァルト様も、クリスティーナ様とは親しくさせていただいておりましたから」
「リーゼロッテ様は王女殿下の東宮に、お話し相手としてお呼ばれになっていましたものね」
「ええ、ですから余計に……」
「あら、そういうこと。クリスティーナ様は滅多に貴族の前にはお出にならなかったものね。そんな王族と懇意にしていたことをひけらかす目的でしたの」

 イザベラの言葉に、場がしんと静まり返る。それを破ったのは、もくもくと菓子を頬張っていたツェツィーリアだった。

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