嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「あら、そうでしたの。ではイザベラ様も乗馬に誘われましたのね?」
「乗馬?」
「ええ、クラーラ様がエルヴィン様と乗馬デートをなさったと、社交界ではその話で持ちきりでしてよ」
「も、持ち切りだなんてっ、おはおはお恥ずかしいですわっ」

 赤くなったクラーラの横で、イザベラが唇を噛みしめた。エルヴィンは侯爵家の跡継ぎだ。花嫁候補を探していると、もっぱらの噂になっている。

「その様子じゃイザベラ様は誘われなかったのね」

 はん、とツェツィーリアが馬鹿にしたように笑った。

「わ、わたくしはブラル伯爵家を継ぐ身ですもの。変に気を持たせては悪いでしょう? お誘いは受けましたけど、お断りしたまでですわ」
「ふうん? そうだとしても、その年まで婚約者もいないんじゃ先が思いやられるわね」
「なんですって!? わたくしの結婚相手は宰相であるお父様がお決めになるの! お父様のお眼鏡に(かな)う殿方が見つからないだけだわ!」
「宰相の地位は世襲制ではないのでしょう? ブラル伯爵はもういいお年だし、引退も間近と聞いているわ。そんな先のない家に婿に来たがる物好きはそうそういないってことね」

 まだ十歳のツェツィーリアにやり込められて、イザベラは悔しそうに顔をゆがませた。ツェツィーリアの口を塞ぎたい思いに駆られるも、リーゼロッテには止める余地もない。

「ツェツィーリア様は随分と貴族社会のお勉強なさっているのね。ダーミッシュ家のご長男と婚約が決まったせいかしら?」
「る、ルカのことは関係ないわ。レルナー公爵家の令嬢として当然の知識だわ」

 いたずらな笑みを向けるヤスミンに、今度はツェツィーリアが口ごもった。つんと顔をそらして、ごまかすように紅茶に口をつける。再び沈黙に包まれて、笑顔を保つしかできない自分に、リーゼロッテはもはや自信喪失だ。
 だがここでくじけてはいけない。自分主催の茶会なのだ。場を盛り上げなくてどうするというのか。

「ルチア様はいよいよ社交界デビューですわね」

 デビュタントのための白の夜会が来月に迫っている。間もなくルチアも正式に貴族の仲間入りだ。

「はい……わたくし上手くできるか自信がなくて」
「ルチア様なら大丈夫ですわ。わたくしが保証いたします」

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