嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 疲れ果てて、寝台へともぐりこむ。昼間の出来事が繰り返し繰り返し思いだされて、リーゼロッテは身もだえるように頭から毛布をかぶった。

(うう……わたしが守りたかったものは一体なんだったのかしら……)

 フーゲンベルク家の権威か、ジークヴァルトの名誉か、はたまた公爵夫人としての矜持(きょうじ)だろうか。もう何もかもが分からなくなる。

 ジークヴァルトに恥ずかしいという感情はないらしい。夜会だけでなく、主催の茶会でもジークヴァルトに禁止事項を事細(ことこま)かに伝えなくては。

(それにしてもヴァルト様、今夜はお戻りが遅いわね)

 茶会に顔を出したせいで、執務が滞ってしまったのかもしれない。だが今日ばかりは自業自得だと、心配する気も起こらなかった。

「明日、絶対に抗議しよう……」

 次の茶会はご夫人方を招待する予定になっている。大勢の前でまたアレをやられたら。想像するだけで顔から火が出そうだ。

 そんなことを思いながら一度沈んだ意識が、浅いまどろみまで浮上する。指が頬をすべる感触に、ジークヴァルトが戻ってきたのだと分かった。重すぎる(まぶた)(ひら)けなくて、しばらくされるがままジークヴァルトに撫でられていた。

 おでこにかかった前髪が()けられると、(ひたい)に唇が落とされる。次いでひとつに編まれた三つ編みが、大きな手で(すく)い上げられた。
 しばらくそれを(もてあそ)んでいたかと思うと、ジークヴァルトがやおら髪紐(かみひも)の先を引っ張った。指先に髪を絡め、丁寧に三つ編みを(ほど)いていく。

 毎朝のように結んだ髪が解けているのは、誰でもなくジークヴァルトのせいなのだ。意外な真犯人のお出ましに、真実はいつもひとつな名探偵気分になった。

「もう……ヴァルト様が犯人だったのですね……」

 抗議のつもりで()く手を制すると、指と指を(から)めとられる。青の瞳が細められ、近づいてきた顔に唇を塞がれた。
 エスカレートしていく口づけに、怪しい手つきが加わっていく。

「ん、今夜はまだ……」

 今はまだ月のものの期間だ。寝台を汚したくなくて、リーゼロッテはジークヴァルトの肩を強く押した。

「ああ、分かっている」
「や……駄目……せめてあと一日は……」
「分かっている、触れるのは服の上からだけだ」
「上からってそんなっ!」

 ジークヴァルトはもどかしくてたまらない手つきで攻めてくる。
 それは止まることなく、そのまま朝を迎えたリーゼロッテだった。





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