嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-

第6話 王妃の手ほどき

 夫婦となった今でも、ジークヴァルトと食卓を囲むことは滅多にない。ひとりきりの朝食を済ませ、ティーカップから立ち昇る湯気をリーゼロッテはじっと見つめていた。

「ねぇ、エラ。わたくしね、夕べは朝までぐっすり眠れたの」
「それはようございました……何かご心配なことでも?」

 考え込むリーゼロッテを見て、エラは不思議そうに首を傾けた。月のものの期間以外は、ジークヴァルトのせいで夜に眠ることができないでいる。そんな日々が当たり前になっている中、昨晩は手を出されることなく、気づけば朝を迎えていた。

(今朝も起きたときに三つ編みは(ほど)けてたから、ヴァルト様が横で寝てたのは間違いないんだけど……)

 昨夜は先に寝てしまって、ジークヴァルトがいつ戻ってきたのか記憶にない。そんな日でもいつの間にかあんあん言わされていたのに、昨日に限っては何事もなかったようだ。

「いいえ、何でもないの。ヴァルト様だって疲れているときくらいあるわよね……」

 ぽつりと小さくつけ加える。毎晩のようにまぐわって、それなのにジークヴァルトは明け方早くに執務へと行っている。リーゼロッテが起きたときに、ジークヴァルトが横にいることはごく(まれ)だ。

「それは奥様がぐっすりお眠りになっていたからなのでは? 旦那様はきっと、起こすのがかわいそうと思われたんですよ」
「そうなのかしら……?」

 まどろみの中で、まぐあいへと強制突入させられることもしばしばだ。だが言われてみれば、昨日は夜の間一度も目覚めずに、ジークヴァルトと目が合うこともなかった。

(完全に寝入っていれば、朝まで眠らせてくれるということかしら)

 ふと目覚めたときに視線が合うと、ジークヴァルトは必ずキスをしてくる。月のものの間はそれで終わるが、そうでないときは必ず夫婦の営みへと移行していたように思う。

(もしかして、途中で起きなければ手を出されない……?)

 だとすると、ジークヴァルトが戻ってくるのを待たずに、さっさと寝てしまえばいいことだ。長時間働いているジークヴァルトには悪いと思うが、体力を温存するためには適度に休まないとこちらの身が持たない。

(ヴァルト様の行動パターンを、改めて再考した方が良さそうね)

 そんなこと思ってリーゼロッテは、しばらくの間ジークヴァルト観察日記をつけることにしたのだった。

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