嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
◇
通された豪華な部屋で、アンネマリーは長椅子に足を延ばして座っていた。臨月を迎えたそのお腹は、驚くほど大きくふくらんでいる。
しかしリーゼロッテはむしろ、はちきれんばかりの胸に目を奪われていた。妊婦の胸はひと回りもふた回りもサイズアップを果たすという知識はあった。もともとたわわなお胸のアンネマリーだ。それがさらに迫力を増して、リーゼロッテに現実の非情さを突きつけてくる。
ここ数か月ジークヴァルトに毎晩せっせと育ててもらい、「少しは胸が大きくなったかな」などと密かによろこんでいたのだ。アンネマリーの存在感ある胸を前に、そんな自分がなんだかみじめに思えてくる。涙目になるのを必死にこらえ、王族に対する最大級の礼を取った。
「アンネマリー王妃殿下、本日はお招きありがとうございます」
「急に呼び立てて悪かったわね。人払いをしてあるからいつも通りでいいわ」
「ではお言葉に甘えまして……今日は久しぶりに会えて本当にうれしいわ」
「わたくしもよ。リーゼ、結婚おめでとう。よかったわ、出産前に直接伝えたいって思っていたから」
「ありがとう、アンネマリー」
昔なら駆け寄ってハグのひとつもしているところだ。だが今やアンネマリーは未来の王を宿す一国の王妃だ。いくら人払いがなされているとはいえ、立場的に自重しなければならない。リーゼロッテはおとなしく向かいのソファに腰かけた。
「こんな格好のまま迎えてごめんなさいね。なにしろお腹がこうでしょう? 動くのもままならなくて」
「アンネマリーの体が最優先だもの。そんなことは気にしないで」
「ふふ、早く出てきてくれないかしら……。出産はすこし怖くも感じるけど、今はこの子の顔を一日も早く見てみたくって」
気だるげにしつつも、アンネマリーはすでに母親の顔になっていた。手を当てたふくらみに、慈愛のまなざしを向けている。伏せたまつ毛の横顔がものすごく大人びて見えて、ひとつ年上なだけのアンネマリーに、焦りにも似た憧憬を感じてしまう。
「予定では今月中なのでしょう?」
「ええ、白の夜会に当たらないといいのだけれど……」
「そうなったらハインリヒ王も落ち着いていらっしゃれないわね」
アンネマリーは夜会に出ないことが決まっているが、王の立場ではそうもいかない。たとえ最愛の妻の出産が始まったとしても、デビュタントを迎える夜会をすっぽかすなどできないだろう。
「ここまで来たらなるようにしかならないわ。あとは運任せね」
「アンネマリー……なんだかとても強くなったわ」
「この一年、わたくしも王妃としてたくさん試されてきたから」
口元に笑みを浮かべるも、リーゼロッテには想像もつかない苦労が山ほどあったはずだ。アンネマリーは王妃として立派にハインリヒ王を支えている。その姿がまぶしく映るのも、彼女の弛みない努力があったからこそだ。
通された豪華な部屋で、アンネマリーは長椅子に足を延ばして座っていた。臨月を迎えたそのお腹は、驚くほど大きくふくらんでいる。
しかしリーゼロッテはむしろ、はちきれんばかりの胸に目を奪われていた。妊婦の胸はひと回りもふた回りもサイズアップを果たすという知識はあった。もともとたわわなお胸のアンネマリーだ。それがさらに迫力を増して、リーゼロッテに現実の非情さを突きつけてくる。
ここ数か月ジークヴァルトに毎晩せっせと育ててもらい、「少しは胸が大きくなったかな」などと密かによろこんでいたのだ。アンネマリーの存在感ある胸を前に、そんな自分がなんだかみじめに思えてくる。涙目になるのを必死にこらえ、王族に対する最大級の礼を取った。
「アンネマリー王妃殿下、本日はお招きありがとうございます」
「急に呼び立てて悪かったわね。人払いをしてあるからいつも通りでいいわ」
「ではお言葉に甘えまして……今日は久しぶりに会えて本当にうれしいわ」
「わたくしもよ。リーゼ、結婚おめでとう。よかったわ、出産前に直接伝えたいって思っていたから」
「ありがとう、アンネマリー」
昔なら駆け寄ってハグのひとつもしているところだ。だが今やアンネマリーは未来の王を宿す一国の王妃だ。いくら人払いがなされているとはいえ、立場的に自重しなければならない。リーゼロッテはおとなしく向かいのソファに腰かけた。
「こんな格好のまま迎えてごめんなさいね。なにしろお腹がこうでしょう? 動くのもままならなくて」
「アンネマリーの体が最優先だもの。そんなことは気にしないで」
「ふふ、早く出てきてくれないかしら……。出産はすこし怖くも感じるけど、今はこの子の顔を一日も早く見てみたくって」
気だるげにしつつも、アンネマリーはすでに母親の顔になっていた。手を当てたふくらみに、慈愛のまなざしを向けている。伏せたまつ毛の横顔がものすごく大人びて見えて、ひとつ年上なだけのアンネマリーに、焦りにも似た憧憬を感じてしまう。
「予定では今月中なのでしょう?」
「ええ、白の夜会に当たらないといいのだけれど……」
「そうなったらハインリヒ王も落ち着いていらっしゃれないわね」
アンネマリーは夜会に出ないことが決まっているが、王の立場ではそうもいかない。たとえ最愛の妻の出産が始まったとしても、デビュタントを迎える夜会をすっぽかすなどできないだろう。
「ここまで来たらなるようにしかならないわ。あとは運任せね」
「アンネマリー……なんだかとても強くなったわ」
「この一年、わたくしも王妃としてたくさん試されてきたから」
口元に笑みを浮かべるも、リーゼロッテには想像もつかない苦労が山ほどあったはずだ。アンネマリーは王妃として立派にハインリヒ王を支えている。その姿がまぶしく映るのも、彼女の弛みない努力があったからこそだ。