嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「ひとが(うらや)ましいとか(ねた)ましいだとか……リーゼはそんなこと考えもしないのね」
「え? そんなことは……」
「いいえ、リーゼは本当に昔と変わらないわ」

 リーゼロッテにも人を妬ましく思う気持ちくらいはある。現に今もアンネマリーの胸に羨望(せんぼう)の視線を浴びせまくりだ。だがここでそうじゃないと押し問答したところで意味はないだろう。代わりに拗ねたように唇を尖らせた。

「公爵夫人になったのに、わたくしなんだかちっとも成長してないみたい」
「そんなことないわ。リーゼ、とても綺麗になったもの。公爵にはちゃんと大切にされているようね?」
「大切にされているというか、大切にされすぎているというか……」

 突然ジークヴァルトを話題に出され、頬が熱を持った。溺愛の日々が頭をよぎって、ごにょごにょと口ごもる。
 ついでに(ねや)の悩みまで思い出されて、いきなり現実に引き戻されてしまった。今、ジークヴァルトは王城に出仕している。それが終われば速攻でここへと迎えに来るに違いない。そのまま公爵家の寝所に直帰(ちょっき)して、朝までコースに突入する未来が、リーゼロッテにはありありと見えてしまった。

 赤くなったあと、すぐにどんよりしだしたリーゼロッテに、アンネマリーが小首をかしげた。

「どうしたの? 夫婦喧嘩でもした?」
「ち、ちがっ、そういうわけじゃ……」
「じゃあ、公爵に何か困ったことでもされてるの?」
「いいえ、ヴァルト様はちゃんとやさしくしてくださってるわ! だけど……」
「そう、ひとには言えないような悩みなのね。もしかして……公爵との夜の営みの話?」

 リーゼロッテの性格を熟知しているアンネマリーには、何かが伝わってしまったようだ。いたずらな笑みを()いたアンネマリーは、かつての王妃イジドーラの姿を思わせる。そこに(あらが)えないものを感じて、リーゼロッテは気づけば素直に頷いてしまっていた。

 少し考えこんでから、アンネマリーは部屋の奥に声をかけた。

「ビアンカはいて?」
「はい、ここに」

 見えないところで控えていたのか、若い女官がすぐ姿を現した。アンネマリーのそばで膝をついていたリーゼロッテは、慌てて元いたソファで居住まいを正す。

「大丈夫よ、ビアンカは信頼置ける女官だから。医学の知識も持ち合わせていて、わたくしの主治医も務めているの。それでリーゼの悩みはどんなものなの? ビアンカならきっと力になれると思うわ」

 妊娠中のアンネマリーの主治医を務めるくらいだ。男女のまぐあいへの造詣(ぞうけい)も深いのかもしれない。それに王妃づきの女官ならば、口が堅いのは間違いないだろう。ここは思い切って相談してみようと、リーゼロッテは恥を忍んで思いの(たけ)をぶちまけた。

「なるほど……フーゲンベルク公爵様の夜の営みは、大変長くいらっしゃると」

 他人の口から改めて聞かされると、恥ずかしさも倍増だ。だが恥は旅のかき捨ての勢いで、リーゼロッテは頬を染めながらも頷いた。

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