嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 ジークヴァルトは目の前の不毛な議論に苛立っていた。気もそぞろに、思いだけがリーゼロッテの元へと向かう。
 王城だろうと王妃の離宮だろうと、信用などできはしない。離れている間に再び何か起きたら、迷わずハインリヒに切りかかる自信があった。

(自信というより確信だな)

 ここにいる全員を切り殺すとしたら、どの手順がいちばん効率いいだろうか。まずは護衛騎士ふたりに不意打ちを食らわせ、次いで三人の神官たち、駆けつけた扉を守る騎士を返り討ちにして、そして最後は玉座に座るハインリヒだ。

 そんな非生産的なことを頭の中でシミュレーションしていると、耳の守り石がふわりとあたたかくなった。今ここにおとなしく座っていられるのも、この感覚があるからこそだ。

 シネヴァの森で夫婦の契りを交わしてから、リーゼロッテとの繋がりを感じ取れるようになった。それは守護者(ジークハルト)と共に在る感覚にも似ているが、それ以上に強固な(きずな)が結ばれた。

 リーゼロッテは今しあわせそうに笑っている。いつでもどこにいても、そんな感情の波がジークヴァルトには伝わってくる。よろこびも悲しみも驚きも、何もかも。これまで彼女から感じたことがないのは、それこそ怒りの思念くらいだ。ただそれはリーゼロッテの中で、その感情が芽生えないためだろう。

 リーゼロッテの穏やかな波動は、いつでもジークヴァルトに安らぎを与えてくれる。それでもやはり顔が見たい。直接肌に触れ、リーゼロッテの中に包まれ、ふたりでひとつに永遠に混ざり合っていたい。

 そんな欲求とは裏腹に、この場は一向に収まりを見せない。殺気を押し殺そうともせずジークヴァルトは、先ほどからひとりでまくし立てている神官を睨みつけた。

「いくら神託が降りたとはいえ、マルコを夢見の神事に駆り出すなど……! 王は正気でおられるのか!?」
「やめないか、ヨーゼフ。王前で失礼を申すでない」

 ジークヴァルトがシネヴァの森から持ち帰った神託が原因で、ここのところ呼び出されることが多くなった。話し合いはこの神官のせいで、いつも平行線をたどっている。

『夢見を継し者、()は陰と陽をその身に(あわ)せ持つ者なり。古きは捨て、新たに扉を開くべし』

 これがジークヴァルトが森の巫女から託された言霊(ことだま)だ。その解釈をどう取るかで、長いこと大揉めに揉めていた。

「しかし神官長、神官と言えど男を泉に入れるなど前代未聞のことですぞっ。そもそもこの神託に偽りがあるのでは? フーゲンベルク公爵! あなたが巫女から賜った神託の言葉を勝手に違えたのだろう!!」
「公爵様に嘘を言う(えき)などどこにある」
「だとしたら神託の解釈が間違っているのでしょう。建国以来、夢見の巫女を務めてきたのは無垢(むく)な乙女のみ。それをここにきて男であるマルコを名指しするなど、ハインリヒ王は常識がなさすぎる!」
「いい加減にするんだ、ヨーゼフ」

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