嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
「遅くなるようだったら、お前は先に眠っていろ」

 意外にも王妃の離宮から戻ったあと、そう言い残してジークヴァルトは慌ただしく執務へ向かっていった。

(馬車の中でも書類に目を通していたし、急なお出かけで調整がつかなかったのかしら……?)

 いつものようにひとりきりで夕食を取り、早めに寝支度を済ませた。このまま先に寝てしまう手もあったが、せっかくの空いた時間だ。アンネマリーから届けられた数冊の本を、興味津々で手に取った。

 ありきたりな心構えが書かれた花嫁修業の本に、専門的すぎる医学書。その中にまぎれて詩集のような装丁の本があった。なんとはなしにページをめくると、その内容の濃さにリーゼロッテは思わず目を見開いた。

「これ詩集なんかじゃないわ……」

 確かに最初の数ページだけは、貴婦人がティーカップを片手に(たしな)むような、お上品なポエムが載っている。だがこれは誰かに見られたときに、ごまかすためのフェイクなのだろう。後ろに続くページには、夜の営みに関する指南がびっしりと綴られていた。

 男女のカラダの基本から、寝所での作法、その気のない殿方の誘い方や焦らしのテクニック、お勧めの体位、殿方を巧みに癒すあの手この手まで、生々しい図解入りで事細かに解説されている。
 臨場感あふれる文章で記述されていて、気づくとリーゼロッテは前のめりで熟読をしていた。

(この知識があればいけそうな気がするわ。あとはいかに主導権を握るかだけど)

 あのジークヴァルト相手に、どうやってそういう流れにもっていけばいいのだろうか? さすがにそこまではレクチャーされていなくて、リーゼロッテは前段階で行き詰ってしまった。

「駄目だわ。一度落ち着いてから考えよう」

 名案が思い浮かばなくて、リーゼロッテはふっと力を抜いた。時刻を見やると夜もだいぶ()けてきている。そろそろジークヴァルトが戻ってきてもおかしくない頃合いだ。
 先に寝てしまえば、今夜のところはまぐあいは回避できる。だが昨日もおとといもお預けになっているので、あまり先延ばしにするのもまたジークヴァルトが面倒くさくなる。

 寝るか起きて待つか。決断を迫られる中、アンネマリーにお土産を持たされたことを思い出した。
「勇気が出るおまじない」と称して渡されたのは、ピンクの可愛らしい小さな瓶だ。ぱっと見は香水のようだが、中身はなんと媚薬(びやく)だというから驚いた。

(合法で安全って渡されたけど)

< 83 / 305 >

この作品をシェア

pagetop