嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 飲めば開放的な気分になって、ちょっぴり大胆になれるらしい。しかし媚薬というと、どうしても(とら)われた神殿での恐怖が蘇る。

「ヴァルト様とだったら怖くないかしら……」

 もともと合意の上で、パートナーと楽しむためのモノらしい。中身を瓶から出すと効力が失われるので、薄めずに直接飲むように言われていた。

「どうしよう……もう少しこの本で勉強したいし、飲むにしてもまた今度にしようかしら。でも起きてヴァルト様を待ってるんだったら、確実に朝までコースよね」

 先に寝てしまうという手もあるが、これ以上待てが続くと明日の夜に痛い目を見るのは確実だ。
 きゅぽんと外した瓶の口に鼻先を近づけ、くんくんと匂いをかいでみる。むせ返る甘い香りに、それだけでなんだかくらくらしてきてしまった。

(ちょっとだけ味見を……)

 恐る恐る(ふち)に舌をつける。軽く傾けたところで、いきなり部屋の扉が開かれた。

 驚きと媚薬という後ろめたさで、思わずごきゅっと一気飲みをしてしまう。甘ったるい液体が(のど)を通り、どろりと胃に落ちていくのが分かった。酒を飲んだときに似た酩酊(めいてい)感が、頭に体に、あっという間に広がっていった。

 ジークヴァルトに背を向けながら、やっちまった感に動揺が走る。小瓶を握りしめ、早くなる鼓動を落ち着かせるため、ふうぅと大きく息をついた。

「どうした?」
「い、いいえ、何もありません」

 視界がゆらゆら揺れているような気がするが、媚薬を飲んだなどとバレるのは恥ずかしすぎる。瓶を後ろ手に隠し、ジークヴァルトにひきつった笑みを向けた。

「何を隠した? 甘いにおいがする」
「な、何も」
「顔が赤いぞ? もしかして酒か?」
「お酒など飲んでおりません。へ、部屋が暑いのかしら」

 ごまかすように、ぱたぱたと手うちわで顔を仰ぐ。さっきから体が火照(ほて)って仕方がない。息もどんどん荒くなってきた。
 挙動不審なリーゼロッテに眉根を寄せて、ジークヴァルトが確かめるように腕を伸ばしてきた。

「熱でもあるのか?」
「ひゃぁあんっ」

 (ひたい)に軽く触れただけの指先に、自分でもびっくりするくらいの声が出る。お互いにぎょっとして、しばし無言で見つめ合った。

(どうしよう。なんだか……すごくムラムラする)

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