嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 仕上げにと、結い上げられた髪に長いヴェールがかけられる。繊細な薄いレースを通しても、蜂蜜色の髪は(つや)やかに輝いて見えた。クリスタの手でヴェールが降ろされると、リーゼロッテは非の打ちどころの無い完璧な花嫁となった。

「では行きましょう。あのひとも今頃そわそわして待っていると思うから」
「フーゴお義父様が?」
「ええ、シネヴァの森での婚姻の神事に参加できなかったこと、ずっと残念がっていたのよ。今日この日を迎えられて、わたくしも本当にうれしいわ」

 クリスタに手を引かれ、移動した先でそのフーゴが待っていた。みなは一足先に聖堂に向かい、フーゴとふたりきりで残される。

「……本当に綺麗だ。リーゼロッテはもう公爵家の方になったが、今日だけはまだお前の父親でいさせてくれるかい?」
「もちろんですわ、フーゴお義父様」

 貴族階級の中で生きていくには、身分を無視することなどできはしない。だがそれは(おおやけ)の場だけのことだ。

「これからもずっと、お義父様の娘でいさせてくださいませ」
「リーゼロッテ……父親として今この手を引けることが、わたしは本当に誇らしいよ」

 言葉を詰まらせながら、フーゴの瞳に涙がにじむ。それにつられて、リーゼロッテも本格的に涙が溢れ出そうになった。

「泣いては駄目ですわね。お義父様も……これ以上みな様をお待たせしてはいけませんわ」
「ああ、そうだな。なんだかリーゼロッテの白の夜会のときを思い出すよ。だが社交界デビューで緊張していたリーゼと、今のわたしが立場逆転してしまっているな」

 いまだ泣きだしそうな顔で、フーゴが肘を差し出してくる。そこにそっと手を添えて、ふたりは扉の前に並び立った。

 押し開かれた扉をくぐり、父と共にステンドグラスが(いろ)を落とすバージンロードを渡る。肌寒い聖堂は思った以上に広く、また天井が果てしなく高かった。見上げた祭壇には瞳を閉じた女神像が(まつ)られ、慈愛の表情で広げた両の手のひらを軽くこちらに向けている。

 左右に置かれた長椅子には、多くはない参列者が。進む先、祭壇前に女性神官が立ち、すぐ脇で正装をしたジークヴァルトがひとり(たたず)んでいた。

 その頭上で守護者(ジークハルト)が浮いている。リーゼロッテと目が合うと、ひらひらと手を振ってきた。反応することもできずに瞳を伏せると、ジークハルトは楽しげにすいと上に昇っていった。

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