嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
泳ぐように天井付近を旋回し、事もあろうにジークハルトは女神像の唇にちゅっとキスをひとつ落とした。出そうになった声を何とか押さえて、リーゼロッテは前方に意識を戻す。
一歩一歩を踏みしめて、リーゼロッテはジークヴァルトの元へと目指した。振り返った青の瞳を、真っすぐに見つめ返す。
誰よりも、この姿をよろこんでもらいたかった。それなのにジークヴァルトは、一瞬だけ苦しげに目を細めた。リーゼロッテでなかったら、誰もが見逃してしまいそうなわずかな変化だ。
夫婦となった今も、ジークヴァルトは時折あんな顔をする。心の奥が見えなくて、リーゼロッテの胸のうち、不安の火が小さく灯った。守られるだけで、自分はいまだ頼りのない存在だ。
そんな思いも式の流れに消えていく。たどり着いた祭壇で、フーゴからジークヴァルトの手に引き渡される。並び立ったふたりを見て、司祭を務める女性神官がやさしげに微笑んだ。
経典を開き、まずは祀られた女神に祝詞をあげていく。女神を讃える言葉に続き、誓約の祝詞が聖堂の中、朗々と響いた。
結婚式といえ、似たような手順はあっても、作法はこの国独特のものだ。市井で一般的な指輪の交換も、式の最中には行わない。永遠の愛を誓い合うしるしに、神前で口づけを交わすことだけは同様の風習となっていた。
「女神シイラはあなた方の婚姻を祝福します。ふたりを死が分かつまで、この絆が固く守られ、シイラの加護がたゆみなくあらんことを」
ジークヴァルトと死に分かつなど、言葉にしただけで胸が張り裂けそうだ。決まり文句だとは分かっているが、リーゼロッテは潤んだ瞳で横に立つジークヴァルトを見上げた。
ヴェールを持ち上げられ、包み込むように両肩に大きな手が乗せられる。前かがみになったジークヴァルトの顔が、ゆっくりと近づいてきた。無防備な唇を捧げるように、軽く上向いたままリーゼロッテはそっと瞳を閉じた。
やさしく、触れるだけのキスに、参列者の歓声があちこちから湧き上がる。みなの前での口づけに、我に返った頬が一瞬で色づいた。
そんなリーゼロッテを隠すように、ジークヴァルトが無作法に抱き寄せる。崩れるバランスの中、あっという間に抱き上げられた。
抗議の言葉は、はやし立てる声に掻き消されてしまった。ジークヴァルトの腕の中で、フラワーシャワーが降り注ぐ聖堂を、リーゼロッテはぐるりと見回した。
祝福に包まれて、ただしあわせを嚙みしめる。森の神事では味わえなかった至福が、この胸をどこまでも満たしていった。
この日を生涯忘れることはない。瞳に焼きつけようと思った風景は、堪えきれない涙であっという間にぼやけたのだった。
一歩一歩を踏みしめて、リーゼロッテはジークヴァルトの元へと目指した。振り返った青の瞳を、真っすぐに見つめ返す。
誰よりも、この姿をよろこんでもらいたかった。それなのにジークヴァルトは、一瞬だけ苦しげに目を細めた。リーゼロッテでなかったら、誰もが見逃してしまいそうなわずかな変化だ。
夫婦となった今も、ジークヴァルトは時折あんな顔をする。心の奥が見えなくて、リーゼロッテの胸のうち、不安の火が小さく灯った。守られるだけで、自分はいまだ頼りのない存在だ。
そんな思いも式の流れに消えていく。たどり着いた祭壇で、フーゴからジークヴァルトの手に引き渡される。並び立ったふたりを見て、司祭を務める女性神官がやさしげに微笑んだ。
経典を開き、まずは祀られた女神に祝詞をあげていく。女神を讃える言葉に続き、誓約の祝詞が聖堂の中、朗々と響いた。
結婚式といえ、似たような手順はあっても、作法はこの国独特のものだ。市井で一般的な指輪の交換も、式の最中には行わない。永遠の愛を誓い合うしるしに、神前で口づけを交わすことだけは同様の風習となっていた。
「女神シイラはあなた方の婚姻を祝福します。ふたりを死が分かつまで、この絆が固く守られ、シイラの加護がたゆみなくあらんことを」
ジークヴァルトと死に分かつなど、言葉にしただけで胸が張り裂けそうだ。決まり文句だとは分かっているが、リーゼロッテは潤んだ瞳で横に立つジークヴァルトを見上げた。
ヴェールを持ち上げられ、包み込むように両肩に大きな手が乗せられる。前かがみになったジークヴァルトの顔が、ゆっくりと近づいてきた。無防備な唇を捧げるように、軽く上向いたままリーゼロッテはそっと瞳を閉じた。
やさしく、触れるだけのキスに、参列者の歓声があちこちから湧き上がる。みなの前での口づけに、我に返った頬が一瞬で色づいた。
そんなリーゼロッテを隠すように、ジークヴァルトが無作法に抱き寄せる。崩れるバランスの中、あっという間に抱き上げられた。
抗議の言葉は、はやし立てる声に掻き消されてしまった。ジークヴァルトの腕の中で、フラワーシャワーが降り注ぐ聖堂を、リーゼロッテはぐるりと見回した。
祝福に包まれて、ただしあわせを嚙みしめる。森の神事では味わえなかった至福が、この胸をどこまでも満たしていった。
この日を生涯忘れることはない。瞳に焼きつけようと思った風景は、堪えきれない涙であっという間にぼやけたのだった。