嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
(古代文字か……?)

 目で追う光は速く、すぐに消えゆく文字は所々も読み取れない。それでも繰り返される文言(もんごん)があって、カイは意味を探して呟いた。

「女神……シイラ……に、祝福と、最も高い喜びを……」

 ティビシスは女神シイラを(まつ)る神殿だ。(いにしえ)の時代に、シイラはこの地に封印されたとの伝承が残っている。廊下に刻まれた古代文字は、その存在を(たた)(しず)めるための言霊(ことだま)のようだ。すべてを読み解けはしないが、大まかにでもそれは理解できた。

(でもなぜ聖女の力に反応を……?)

 駆け抜ける緑に追いつけなくなって、カイは途中で足を止めた。乱れた息を整えながら、壁の模様に指を這わせる。

 青龍には関わりのない神殿だとしても、こんなことでもなければ入り込めない場所だ。国内最古の建造物でもあるし、託宣にまつわる見聞(けんぶん)が何がしか得られるかもしれなかった。

 カイは各地を回り、いまだ龍の託宣の情報を集めていた。それでもここ二年の間、目新しい見地(けんち)は得られていない。

 ジークヴァルトとリーゼロッテが婚姻を結んだ今、降りた託宣のうち、果たされていないものは残り三つとなった。そのうちのひとつが、カイの(たまわ)った託宣だ。

 託宣を(はば)もうとする者は、龍の手により死が与えられ、やがて禁忌(きんき)の異形となり果てる。それは「星を堕とす者」と呼ばれ、誰からも忌避(きひ)される存在だ。
 そんな異形の者になるという不可解な託宣を、カイは龍から授かった。

 ラスの名を受け、星に堕ちる宿命(さだめ)を持つ者として、生まれながらに罪を背負わされたという訳だ。

 ふたつ目はルチアに降りた託宣だった。ルチアは王族の血を引きながら、カイと同じく過去に例を見ない、過酷な託宣を受けた哀れな少女だ。

 いずれ異形に殺されるルチア。やがて星に堕ちるカイ。

 何かとルチアを気にかけてしまうのも、同類を憐れむ気持ちからなのだろうと、カイは自嘲気味に(わら)った。

(そして、あとひとつ……)

 見つからないままの託宣が存在していた。神殿の書庫に記録は残るものの、該当者が行方不明となっている託宣だ。

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