虐げられていた偽りの姫は(自称底辺の)最強魔術師に甘やかされる
闇の中で見つけた幸せ
ソフィアは目隠しをされ、何も見えない状態で馬車に押し込まれた。恐怖と不安で心臓が激しく鼓動している。馬車が動き出し、ソフィアは自分がどこに連れて行かれるのかもわからずにいた。
「こんな所で会うとは思わなかったよ、ソフィア」低く冷たい声が響いた。
ソフィアは目隠し越しに声の主を見上げた。そこに誰がいるというのだろう。私の名前を知っている人だということならわかる。
一瞬、チャップマン家の人間かと思ったが声質が違う。この声をソフィアは聞いたことがない。それなのに、体の奥底から震えてしまうような、この恐怖は一体どこからくるというの。
すぐ近くにルイスがいないことだけはわかっていた。きっと、とても心配させてしまっていることだろう。自分はまだ大丈夫だと、そう伝える手段が何もない。
そうこうしている間にも、男はソフィアに顔を近づける。
「どうやら、噂は本当だったらしい」
首元に、ひやりとしたものが当てられた。刃物だ。自分の肌に、刃が突き立てられようとしている。
「ソフィア、お前はどうせ忘れてしまったんだろう? 残念だよ、俺のことがわからないなんて。お前をあの母親から奪って可愛がってやろうと思ってたのによ」
「……お母様?」
奪ったとはどういうことなのか。
それらは全て言葉にならない。変に言葉を挟めば、いっきに首を掻き切られるはずだ。
「一度は逃したが、今度こそお前を連れ戻す。お前は俺の隣にいるべきだ」
男は冷たく言い放った。
「逃げようとすれば、お前の周りの人間に危害が及ぶ。そんなことを望みたいわけではないだろう」
「や、やめてください……!」
「はは、ずいぶんとお利口な人間に育ったじゃないか。だが考えたことはあるか?」
まるで悪魔のような囁きだった。
「お前が守ろうとしている人間が、お前のことを裏切っていたことを」
「……え」
手足が拘束され、その代わりに、はらりと目元を覆っていた布が刃で切られる。
暗い馬車の中で、短髪の男がソフィアを見ていた。
「覚えていないのか、本当に俺を」
わからないはずだった。しかし、この声を、ソフィアは知っている。
「……リカルド?」
その瞬間、頭の中で濁流のように映像が流れた。
幸せそうに笑う少女。その前には、穏やかに微笑む貴族の夫婦。その後ろで少女を見守るリカルドの姿。
「忘れたとは言わせないぜ。俺はお前の最も近くにいたんだからな」
なぜ忘れてしまっていたのだろう。この男をソフィアはよく知っていた。けれど思い出さないようにしていた。この男の記憶には、幸せそうに笑っていた両親の顔が思い浮かぶから。その両親は、戦争に巻き込まれ死んでしまったのだ。そして彼もまた、あの日死んだはずだった。
「どうして……生きて」
リカルドは冷酷に微笑んだ。
「信じられないのも無理はない。ただ、この世界には魔術がある。記憶の改ざんなんて簡単なんだよ。あの男のようにな」
「あの男って……」
「ルイスだよ。お前を利用しているな」
唐突にルイスの名前が出てきたことにソフィアは目を見開いた。
「そ、そんなはずありません……! 撤回してください」
「なに必死になってんだ。……まあ、いきなり言われて混乱するのもわからなくはないか。じゃあ、お前が信じている記憶の通りで話をしてやろうか」
「信じているわけではなくて、私には私の──」
「なぜ、ルイスがお前を近くに置くことを選んだのか。その理由を説明できるのか」
リカルドに問われ、ソフィアは言葉が出なかった。
「お前はチャップマン家で奴隷のような生活を送っていた。それなのに、なんで急にルイスがお前を助け出してくれるんだ? ほかにも奴隷はいたんじゃないのか? お前だけ自分の城に連れ帰った理由を俺にわかるように説明してみろよ」
「それは……」
なぜなのか。それに答えられるだけの説明が、ソフィアにはなかった。ルイスが優しいだけでは、この男から求められているものを返せそうにない。なぜ自分だけあんなに手厚い対応をしてもらえるのか。それはソフィア自身もまたわからないままだった。
「ほらな、わからないだろう? 適当に誤魔化されてるんだよ、もしかするとお前のことも魔術で操っていたのかもしれないな」
「う、うそです……そんなはずは」
「この世界でルイスと聞けば、第二王子の最強魔術師だって知らない人間はいないんだよ」
「え……」
あの人が王子……?
自分のことを底辺魔術師だと、そう言っていたあの人が?
信じられない気持ちでいっぱいの中、リカルドはソフィアの髪に触れる。
「もうひとつ、信じられないついでに教えてやるよ。ソフィア、お前には特別な力がある」
「そんな力……私にはありません」
「あるんだよ、その力があるから、お前はルイスに拾われたんだからな」
「信じません……! 私はただ普通の人間で」
「知らないとは言わせないぞ。お前はすでに力の存在を知っているはずだ。そして使ったこともあるだろう。お前の母親が持っていた力は引き継がれているはずだ」
国王だったソフィアの父の側近だったリカルドが知らないはずはない。ソフィアの母には特別な力が宿っていたことを。そしてそれが、受け継がれたということも。
馬車はさらに暗い道を進み、ソフィアの運命がどこに向かうのかもわからなかった。
「ルイスはお前の力を知ってる。それを利用しようとしているんだぜ」
「……ルイス様は、たとえ知っていたとしても、利用するだなんて考える人ではありません」
今まで過ごしてきた時間、ルイスがくれた気遣いや優しさでソフィアは救われていた。決して長いこと一緒にいたわけではない。それでも短い時間だけでじゅうぶん、ルイスの素晴らしい人柄は知っていたつもりだ。それらを否定するように、リカルドは高らかに笑った。
「本当にそう思うのか? お前の力を利用すれば、国を統治するのに有利になるんだぞ? お前はルイスにとってただの駒なんだよ」
「……どうしてそんなことを言うのですか?」
ソフィアは声を震わせながら問いかけた。「ルイス様はそんなことしない」
「お前がそう思いたいだけだ」リカルドは冷酷に笑った。「もしルイスが本当にお前のことを大切にしているのなら、嘘をついたりはしないはずだ。王族に近づく人間は、みな身辺調査を徹底される。もちろん、ソフィア、お前の出生だって調べたはずだ。そしてシャウマン国の国王の娘だということも、当然あいつはわかっただろうな」
ルイスから過去を問われたことは一度だってなかった。ソフィアもまた自分からシャウマン国の生まれであることを口にしたわけでもない。けれど、もしリカルドの言うように、全てを知っていたとしたら。
「お前が欲しい理由はただひとつ。お前が持つ力だ。それ以外にないんだよ」
おかしいと思っていた。
奴隷として働かされてきた人生で、ルイスのような人に助けてもらえるなんて。まして大切にしてもらえるなんて。あの日々が夢のようだった。いつか終わりがくるのではないかと思っていたけれど、本当に終わってしまうのかと思うと心が切ない。
ルイスが欲しかったものが本当に、自分が持つとされている力なら。
それで全て、説明がついてしまう。大切にされた理由も。
廃屋の中では、リカルドがソフィアを脅していた。ソフィアは手足を縛られ、無力感と恐怖に押しつぶされそうになっていた。
「さあ、どこから話そうか。会えなかった七年分の思い出を語るのも悪くないが、やはりモヤモヤは最初に解消しておいたほうがいいかもしれない。それならば、俺とソフィアの出会いでも話そう」
リカルドは終始楽しそうだった。鼻歌をうたいながら、くるくるとソフィアの前を行ったり来たりと繰り返す。
「俺はもともと、オリヴィア様……ああ、お前の母親に仕えていた。彼女の家柄も裕福でな、俺は使用人として扱われていたが、まあ不満はなかったよ。それに面白いもんが見れた。オリヴィア様には、国家を揺るがすとんでもない力が備わっていた。つまるところ、最強のヒーリングだ」
「最強の……ヒーリング」
「けれど、それには王が困ってしまってね。なんでも治してしまうのはいいが、そうすると医師たちが必要なくなってしまうだろう? しかもヒーリングできるのは1日に数人が限界だった。それならばと王は自分のものにしてしまおうと考えたわけだよ」
リカルドの話す王とは、ソフィアの父だろう。しかし自分が知っている父親とはずいぶんとかけ離れた人物像で、ソフィアは困惑した。
ソフィアの記憶にあるのは、仲の良い両親だった。ありったけの愛情を注いでもらっていたはずだ。
「信じられないことをするのが王だ。結果的にオリヴィア様は力の使い過ぎで寿命が縮まったみたいでよ。あまりにも辛かったのか、一人娘のソフィア、お前を売って命乞いをしようとしたんだよ」
「え……」
「”自分の娘にも同じ力が宿っている!”そう言って助かろうとした。笑えるだろう、子どもを生贄にしようとしたんだから。俺はお前を守ってやろうとしたんだぜ?」
おぼろげながら、リカルドの存在がソフィアの中でちらつく。確かに、この人といたかもしれない。
「まあ、そんなことをしても命が先に尽きたわけで、呆気なく死んでいったよ。俺はお前だけでも王から遠ざけてやろうとしたんだが、行き違いがあって、お前は人身売買の商品になっちまってた。しかもそれ以降、お前の気配はその後、一切掴めなくなった」
記憶が歪められていたと、ソィアはそこで初めて気づいた。
「今になっていろいろわかってきたよ。チャップマン家ではただの子どもではなく、特別な少女を秘密裏に扱って儲けていた。ソフィア、お前のように魔力を持った少女をな」
今を生きているのが不思議なぐらいだ、とリカルドはソフィアに近付く。
「お前が忘れてることはこれぐらいか。つーわけで、ルイスはソフィアを利用するために近づいたってことがわかったか? あいつの優しさは偽りだったんだ」
リカルドは囁くように言った。その言葉はソフィアの心をさらに追い詰める。
「違う、ルイス様はそんなこと……」
ソフィアがかすれた声で反論したとき、突然、廃屋の扉が激しく開かれた。
「……やっと見つけた」
「こんな所で会うとは思わなかったよ、ソフィア」低く冷たい声が響いた。
ソフィアは目隠し越しに声の主を見上げた。そこに誰がいるというのだろう。私の名前を知っている人だということならわかる。
一瞬、チャップマン家の人間かと思ったが声質が違う。この声をソフィアは聞いたことがない。それなのに、体の奥底から震えてしまうような、この恐怖は一体どこからくるというの。
すぐ近くにルイスがいないことだけはわかっていた。きっと、とても心配させてしまっていることだろう。自分はまだ大丈夫だと、そう伝える手段が何もない。
そうこうしている間にも、男はソフィアに顔を近づける。
「どうやら、噂は本当だったらしい」
首元に、ひやりとしたものが当てられた。刃物だ。自分の肌に、刃が突き立てられようとしている。
「ソフィア、お前はどうせ忘れてしまったんだろう? 残念だよ、俺のことがわからないなんて。お前をあの母親から奪って可愛がってやろうと思ってたのによ」
「……お母様?」
奪ったとはどういうことなのか。
それらは全て言葉にならない。変に言葉を挟めば、いっきに首を掻き切られるはずだ。
「一度は逃したが、今度こそお前を連れ戻す。お前は俺の隣にいるべきだ」
男は冷たく言い放った。
「逃げようとすれば、お前の周りの人間に危害が及ぶ。そんなことを望みたいわけではないだろう」
「や、やめてください……!」
「はは、ずいぶんとお利口な人間に育ったじゃないか。だが考えたことはあるか?」
まるで悪魔のような囁きだった。
「お前が守ろうとしている人間が、お前のことを裏切っていたことを」
「……え」
手足が拘束され、その代わりに、はらりと目元を覆っていた布が刃で切られる。
暗い馬車の中で、短髪の男がソフィアを見ていた。
「覚えていないのか、本当に俺を」
わからないはずだった。しかし、この声を、ソフィアは知っている。
「……リカルド?」
その瞬間、頭の中で濁流のように映像が流れた。
幸せそうに笑う少女。その前には、穏やかに微笑む貴族の夫婦。その後ろで少女を見守るリカルドの姿。
「忘れたとは言わせないぜ。俺はお前の最も近くにいたんだからな」
なぜ忘れてしまっていたのだろう。この男をソフィアはよく知っていた。けれど思い出さないようにしていた。この男の記憶には、幸せそうに笑っていた両親の顔が思い浮かぶから。その両親は、戦争に巻き込まれ死んでしまったのだ。そして彼もまた、あの日死んだはずだった。
「どうして……生きて」
リカルドは冷酷に微笑んだ。
「信じられないのも無理はない。ただ、この世界には魔術がある。記憶の改ざんなんて簡単なんだよ。あの男のようにな」
「あの男って……」
「ルイスだよ。お前を利用しているな」
唐突にルイスの名前が出てきたことにソフィアは目を見開いた。
「そ、そんなはずありません……! 撤回してください」
「なに必死になってんだ。……まあ、いきなり言われて混乱するのもわからなくはないか。じゃあ、お前が信じている記憶の通りで話をしてやろうか」
「信じているわけではなくて、私には私の──」
「なぜ、ルイスがお前を近くに置くことを選んだのか。その理由を説明できるのか」
リカルドに問われ、ソフィアは言葉が出なかった。
「お前はチャップマン家で奴隷のような生活を送っていた。それなのに、なんで急にルイスがお前を助け出してくれるんだ? ほかにも奴隷はいたんじゃないのか? お前だけ自分の城に連れ帰った理由を俺にわかるように説明してみろよ」
「それは……」
なぜなのか。それに答えられるだけの説明が、ソフィアにはなかった。ルイスが優しいだけでは、この男から求められているものを返せそうにない。なぜ自分だけあんなに手厚い対応をしてもらえるのか。それはソフィア自身もまたわからないままだった。
「ほらな、わからないだろう? 適当に誤魔化されてるんだよ、もしかするとお前のことも魔術で操っていたのかもしれないな」
「う、うそです……そんなはずは」
「この世界でルイスと聞けば、第二王子の最強魔術師だって知らない人間はいないんだよ」
「え……」
あの人が王子……?
自分のことを底辺魔術師だと、そう言っていたあの人が?
信じられない気持ちでいっぱいの中、リカルドはソフィアの髪に触れる。
「もうひとつ、信じられないついでに教えてやるよ。ソフィア、お前には特別な力がある」
「そんな力……私にはありません」
「あるんだよ、その力があるから、お前はルイスに拾われたんだからな」
「信じません……! 私はただ普通の人間で」
「知らないとは言わせないぞ。お前はすでに力の存在を知っているはずだ。そして使ったこともあるだろう。お前の母親が持っていた力は引き継がれているはずだ」
国王だったソフィアの父の側近だったリカルドが知らないはずはない。ソフィアの母には特別な力が宿っていたことを。そしてそれが、受け継がれたということも。
馬車はさらに暗い道を進み、ソフィアの運命がどこに向かうのかもわからなかった。
「ルイスはお前の力を知ってる。それを利用しようとしているんだぜ」
「……ルイス様は、たとえ知っていたとしても、利用するだなんて考える人ではありません」
今まで過ごしてきた時間、ルイスがくれた気遣いや優しさでソフィアは救われていた。決して長いこと一緒にいたわけではない。それでも短い時間だけでじゅうぶん、ルイスの素晴らしい人柄は知っていたつもりだ。それらを否定するように、リカルドは高らかに笑った。
「本当にそう思うのか? お前の力を利用すれば、国を統治するのに有利になるんだぞ? お前はルイスにとってただの駒なんだよ」
「……どうしてそんなことを言うのですか?」
ソフィアは声を震わせながら問いかけた。「ルイス様はそんなことしない」
「お前がそう思いたいだけだ」リカルドは冷酷に笑った。「もしルイスが本当にお前のことを大切にしているのなら、嘘をついたりはしないはずだ。王族に近づく人間は、みな身辺調査を徹底される。もちろん、ソフィア、お前の出生だって調べたはずだ。そしてシャウマン国の国王の娘だということも、当然あいつはわかっただろうな」
ルイスから過去を問われたことは一度だってなかった。ソフィアもまた自分からシャウマン国の生まれであることを口にしたわけでもない。けれど、もしリカルドの言うように、全てを知っていたとしたら。
「お前が欲しい理由はただひとつ。お前が持つ力だ。それ以外にないんだよ」
おかしいと思っていた。
奴隷として働かされてきた人生で、ルイスのような人に助けてもらえるなんて。まして大切にしてもらえるなんて。あの日々が夢のようだった。いつか終わりがくるのではないかと思っていたけれど、本当に終わってしまうのかと思うと心が切ない。
ルイスが欲しかったものが本当に、自分が持つとされている力なら。
それで全て、説明がついてしまう。大切にされた理由も。
廃屋の中では、リカルドがソフィアを脅していた。ソフィアは手足を縛られ、無力感と恐怖に押しつぶされそうになっていた。
「さあ、どこから話そうか。会えなかった七年分の思い出を語るのも悪くないが、やはりモヤモヤは最初に解消しておいたほうがいいかもしれない。それならば、俺とソフィアの出会いでも話そう」
リカルドは終始楽しそうだった。鼻歌をうたいながら、くるくるとソフィアの前を行ったり来たりと繰り返す。
「俺はもともと、オリヴィア様……ああ、お前の母親に仕えていた。彼女の家柄も裕福でな、俺は使用人として扱われていたが、まあ不満はなかったよ。それに面白いもんが見れた。オリヴィア様には、国家を揺るがすとんでもない力が備わっていた。つまるところ、最強のヒーリングだ」
「最強の……ヒーリング」
「けれど、それには王が困ってしまってね。なんでも治してしまうのはいいが、そうすると医師たちが必要なくなってしまうだろう? しかもヒーリングできるのは1日に数人が限界だった。それならばと王は自分のものにしてしまおうと考えたわけだよ」
リカルドの話す王とは、ソフィアの父だろう。しかし自分が知っている父親とはずいぶんとかけ離れた人物像で、ソフィアは困惑した。
ソフィアの記憶にあるのは、仲の良い両親だった。ありったけの愛情を注いでもらっていたはずだ。
「信じられないことをするのが王だ。結果的にオリヴィア様は力の使い過ぎで寿命が縮まったみたいでよ。あまりにも辛かったのか、一人娘のソフィア、お前を売って命乞いをしようとしたんだよ」
「え……」
「”自分の娘にも同じ力が宿っている!”そう言って助かろうとした。笑えるだろう、子どもを生贄にしようとしたんだから。俺はお前を守ってやろうとしたんだぜ?」
おぼろげながら、リカルドの存在がソフィアの中でちらつく。確かに、この人といたかもしれない。
「まあ、そんなことをしても命が先に尽きたわけで、呆気なく死んでいったよ。俺はお前だけでも王から遠ざけてやろうとしたんだが、行き違いがあって、お前は人身売買の商品になっちまってた。しかもそれ以降、お前の気配はその後、一切掴めなくなった」
記憶が歪められていたと、ソィアはそこで初めて気づいた。
「今になっていろいろわかってきたよ。チャップマン家ではただの子どもではなく、特別な少女を秘密裏に扱って儲けていた。ソフィア、お前のように魔力を持った少女をな」
今を生きているのが不思議なぐらいだ、とリカルドはソフィアに近付く。
「お前が忘れてることはこれぐらいか。つーわけで、ルイスはソフィアを利用するために近づいたってことがわかったか? あいつの優しさは偽りだったんだ」
リカルドは囁くように言った。その言葉はソフィアの心をさらに追い詰める。
「違う、ルイス様はそんなこと……」
ソフィアがかすれた声で反論したとき、突然、廃屋の扉が激しく開かれた。
「……やっと見つけた」