悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
 他人にさほど興味がない。ゆえに感情に振り回されず合理性だけで物事を判断できる。楓のその性質はビジネスに向いていた。鷹井AIラボは瞬く間に成長し、ほんの数年で鷹井グループの成長株のポジションを得るまでになった。サンノゼに拠点を置くアメリカ企業との事業連携も決まり「さぁこれから」というときに、降って湧いたのが志桜との縁談だった。

(忙しいときに……面倒だな)

 浮かんだ思いはそれだけだった。

 鹿威しが小気味のよい音を響かせる、老舗の料亭。いかにも見合いといった雰囲気だ。
 時間には余裕を持って到着したのだが、神室家のほうがすでに先に席に着いていた。

「お待たせしてすみません、鷹井楓です」

 そう声をかけると、藤色の着物姿の女性がパッと顔をあげた。
 きっちりとまとめた艶やかな黒髪、スッと目尻のあがった意志の強い目元、ツンととがった形のいい唇。中性的で涼やかな顔立ちだ。
 楓を見た彼女はほんの一瞬おびえたように身を硬くしたが、すぐに覚悟を決めた表情でまっすぐにこちらを見返してきた。

「はじめまして。神室志桜と申します」
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