悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
 トイレから戻って座敷にあがるために靴を脱いでいたところ、志桜の席とは離れたテーブルのお喋りが聞こえてきた。

「ねぇ、さっきの聞いてた?」
「あぁ、神室さんでしょう。新入社員にまで〝お嬢さまアピール〟、本当いい性格よね」

 クスクスと揶揄するような笑い声が志桜の耳にいやに大きく響く。

「あの人にとってはさ、私たち社員は〝使用人〟って感じなんじゃないの~? さっきも新人に雑用させるのなんて当然って顔してたし」

(結城さんと愛奈と普通にお喋りしていただけなのに、そんなふうにとらえられてしまったんだ)

 蘭も愛奈も悪くない。志桜がもともと嫌われているのが原因だろう。
 若手社員が中心だったお喋りに、ベテランの女性たちも口を挟む。

「彼女のお父さん、亡くなった前社長もそういうところあったのよね」
「そうそう、ワンマンで偉そうな人だったわ」
「そうなんですか~。でも、前社長ってあれですよね」
「あれってなんですか?」

 志桜の悪口から、今度は父の悪口に変わった。

「前社長の失策のせいで、うちの会社は一度倒産危機におちいったの。今の社長は、その尻拭いにかなり苦労されられたのよ」
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