悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
 父亡きあと、その始末を一手に引き受けてくれたのが愛奈の父、当時は経理部長だった英輔だった。彼が若者向けの新ブランド、Kマシェリを立ちあげ成功に導いたことで、傾きかけていたKAMUROはどうにか息を吹き返したのだ。その功績で彼は志桜の父の後継として社長に就任。厳しくてワンマンだった前社長よりずっと、社員から慕われている。

(そして、それは娘である私と愛奈にもそっくりそのまま当てはまる)

 志桜は自分の陰口で盛りあがっている彼女たちに存在を悟られないよう、そっと自分のテーブルのほうに足を向けた。
 あいかわらず、愛奈を中心に賑やかなお喋りが続いている様子だ。
 普通にしていても不機嫌だと思われてしまうきつい顔立ち、女性にしては低めの声、冗談のひとつも言えない口下手ぶり。どこを取っても人から好かれない自分と正反対の存在、それが愛奈だ。

「この店、締めの焼きうどんが絶品ですよね~。今日も出るといいなぁ」

 唐揚げを取り分けた皿をみんなに回しながら、愛奈が明るい声で言う。

「愛奈ちゃんって、意外と庶民派よね」
「こういう席での気配りも完璧だしね。この前の接待も、先方の社長がずっと上機嫌だったもんなぁ」
「貧乏性で、ちょこまか動いてしまう性分なだけですよ~」

 みんなが口々に愛奈を称賛する。
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