悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
「誰に対しても優しいし」
「いい意味で! 社長令嬢って感じがしないよね」
 現社長令嬢と前社長令嬢。立場は似たようなものでも、好感度は天と地以上の差がある。
「はぁ」
 思わず、深いため息を落としてしまった。
 志桜はKAMUROの扱うジュエリーが大好きだ。ずっとこの会社で仕事がしたい、貢献したいと思っている。

(だから、今夜こそはみんなともう少し打ち解けたいと思っていたんだけど……やっぱり無理なのかしら)

 その予感は的中する。志桜は今夜も場の空気を悪くするだけの厄介者。愛奈が時々気を使って声をかけてくれたくらいで、ほかの誰とも仲良くなれず解散の時間を迎えてしまった。

 墨田区にある神室本家。といっても、別に大豪邸とかではない。近頃はあまり見かけなくなった瓦の三角屋根が特徴的な、二階建ての一軒家。立地はいいのでそれなりの資産価値はあるだろうけれど、すでに築数十年で古さは隠しようもなかった。
 志桜はこの家でひとり暮らしをしている。昔は父と母に祖母までいて賑やかだったが、小学生のときに祖母と母が、二十歳のときには父も逝ってしまった。
 ただ静かに朽ちるのを待っているようなこの家は、ひとりきりの身にはあまりにも寂しい。それでも、離れようとか手放そうとは思わないけれど。
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