悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
 電話を切って、志桜は駆け出す。古い木製の階段がきしむ音を聞きながら、志桜は若干の不安を覚えた。

(急にうちまで来るなんて。もしかして、もう噂を聞いたのかしら?)

 志桜と別れたあの足で、愛奈が彼に接触していたら? 可能性はゼロではない。いや、むしろ愛奈ならそうすると考えたほうが自然かもしれない。
 ドクドクと鼓動が速くなる。

(勝手に、楓さんは話せばわかってくれると思い込んでいたけど、普通に考えたらあんな写真を見せられたら不愉快になるに決まっているわよね)

 だって、自分たちはつい先日、初めて結ばれたばかりなのだ。その直後にほかの男性とのベッド写真だなんて……。話を聞いてもらう前に捨てられたって、彼を責められない状況だ。

「楓さん」

 扉を開け、志桜はおそるおそる彼を見あげた。楓の瞳はいつもと同じように、穏やかに凪いでいる。

「私、楓さんに謝らなきゃいけないことが……」

 刹那、志桜の身体はふわりと優しく抱き締められた。
 彼は怒ってなどいない、それどころか大きな愛情で志桜を包もうとしてくれているのだとひしひしと伝わってくる。

「ワインのときと同じだ。君はなにも悪くないんだから、謝る必要はない」
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