悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
 KAMUROの未来のために、この縁談を失敗に終わらせるわけにはいかない。たとえ、その先に志桜の幸せがなかったとしても――。

* * *

 だが、あの日の自分が想像した以上に彼はこの婚約、あるいは志桜自身が気に食わなかったらしい。年に一度の誕生日プレゼント以外は、完全に音信不通。勇気を出して一度は自分から電話をしたりもしたが……。
『たいした用じゃなければ、電話など不要だ』と露骨にうっとうしそうな声で吐き捨てられ、二度目の電話の勇気など消え失せた。

(きちんとカリフォルニアの時間に合わせて迷惑にならないよう配慮したのに、あれは傷ついたわ)

 今思い出しても、少しムッとなる。

(あの頃は世間知らずだったから視野も狭くて、KAMUROのために彼と結婚する。それ以外の道は見えなかったのよね)

 志桜はゆっくりと思考を過去から現在へと戻した。

 目の前では、楓が優美な仕草でティーカップを口に運んでいる。その様子に、動揺はまったく見られない。 

「なるほどね。君の要望は俺たちの関係の解消か」
「はい」

 冷めきった瞳こそ変わらないが、こうしてあらためて見ると、五年前よりずっと大人の男性になったのだなと思う。知的で、洗練されていて、セクシーで。
 きっとさぞかし女性にモテるだろう。
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